「明和義人伝~モダンタイムズ~」第25回 : 小田紗 友理さん

プロフィール

小田紗友理さん
小学校教諭・N:birth代表・新潟2期100人ミュージカルプログラム演出

新潟市西区出身。父親が高校教諭、母親も学校関係の仕事に従事するなど、教育者の家庭で育つ。埼玉の大学で児童発達学科を専攻し、在学中にNPO法人コモンビートのミュージカルプログラムに参加。2016年に新潟にUターンし、新潟市内の小学校教諭として勤務。50人の先生チーム「JUMPER!!」やアカペラ×ダンスユニット「ACADANISM」など、さまざまな表現活動の企画・運営を手がけ、202211月に表現活動を軸とした任意団体「N:birth(エヌバース)」を設立。教育者・表現者として、新潟の地で新しいコミュニティづくりに挑戦中。

教育現場が抱える課題に向き合いながら、表現活動を通じて新しいコミュニティづくりにチャレンジしている小田紗友理さん。小学校教諭として勤務する傍ら、ミュージカル、50人の先生たちによるパフォーマンスチーム、異業種メンバーによるアカペラ&ダンスユニットなど、多種多様な表現活動を展開してきました。「大人が変われば、子どもも変わる。そして社会も未来も新潟も変わる」。その思いを胸に、教育者であり表現者として、新潟の地で新たな可能性を追求し続ける小田さんの歩みと、これからの展望について話を伺いました。

教員と表現者として「感動」を伝えるために

小学校教員として務めながら、表現の場の演出など多角的に活躍されています。
現在関わっている活動について、詳しく教えていただけますか。

 

小田:

新潟市内で小学校教員として勤めながら、表現活動や場づくりに取り組んでいます。2022年には、新潟の地域活性化を目指す任意団体「N:birth(エヌバース)」を立ち上げました。N:birthでは、表現活動に関わりたい人たちのためのプログラムを組んでいて、総おどりプログラムやミュージカルプログラムなど、それぞれのゴールを設定しながらチーム作りを行なっています。
これまでも、50人の先生たちが5日間で一つの作品を創り上げる「50人の先生チーム(JUMPER!!)」、会社員や教員、大学院生などさまざな職種の方々が参加し、アカペラとダンスをコラボレーションしたチーム「ACADANISM(アカダニズム)」などを立ち上げました。「にいがた総おどり」などにも参加して、活動の幅を広げています。

 

表現活動に興味を持つようになったきっかけはありましたか?

 

小田:
幼い頃から目立つことが好きだったと思います。小・中学校では姉への憧れと対抗心から吹奏楽部に入り、高校では格好よく踊る先輩の姿に惹かれて、ダンス部に入部しました。ダンスの振り付けを考えるのも楽しかったですし、ダンスなど表現活動には感動を伝えられる力があることを学んだのもこの時でした。

 

大学時代も表現活動を続けていたのでしょうか?

 

小田:
自分が関わりたいサークルが見つからなかったのですが、「4年間で何かできることをやりたい」と思っていました。その中の一つに、憧れでもあり、自分には難しいだろうと思っていたことに、ミュージカルがありました。そんな中、素人でも参加できる市民ミュージカルはないかと探していたところで見つけたのが「コモンビート」です。
コモンビートは、100人のメンバーが100日間で創り上げるミュージカルプロジェクトなどを行なっているNPO法人です。参加者同士はあだ名で呼び合うフラットな文化があって、年齢や職業、学歴、性別の壁を超えた空間がありました。
当時の私は、新卒で就職して、家庭を築いて、定年退職するという普通の人生しか思い描けなかったんです。ですが、コモンビートには世界一周をした人や、フリーターをしながら夢を追いかける人など、さまざまな生き方をしている大人たちがいて、働きながら自分の時間を使ってプログラムを創り上げる姿に、「こういう生き方があるのか」と衝撃を受けたんです。表現活動は人と人とをつなぐツールであり、お互いを知ることに重きを置く活動だという気付きがありました。コモンビートでの経験は、後の私の活動に大きな影響を与えることになりました。

コロナ禍でも歩みを止めなかった表現活動

新潟にUターンされてからは。

 

小田:
9年前に新潟に戻ってきたとき、直面したのは地元の繋がりの少なさでした。まずは新しい人間関係を築くことから始めて、それと並行して学生時代に東京で体験したコモンビートのようなミュージカルプログラムを、新潟でも実現できないかと考えるようになりました。
私自身、「新潟で生きていく意味」を見つけたいという思いもありましたし、東京では多様な背景を持つ人たちが情熱的に活動する姿に刺激を受けたこともあって、そういった場を新潟でも作りたいと。そこで異業種交流会のようなイベントに参加したり、「にいがた総おどり」の一般市民枠にも参加するなどして、少しずつ輪を広げていきました。

 

ミュージカルはどのようなものを考えていたのでしょうか?

 

小田:
具体的には、素人100人で100日かけてミュージカルを作るプログラムを目標にしました。学生時代に経験したコモンビートのようなミュージカルができれば、きっと新潟がもっと熱くなるんじゃないかと思うようになりました。最初のミュージカルプログラムは、コモンビートの事務局に相談して実現したものでした。「新潟で100人キャストを集めてくればプログラムはできる」と言われ、共に駆け抜ける仲間の支えもあって、チャレンジすることにしたんです。結果的に76人が集まり、3400人ほどの観客を集めることができました。100人には届かなかったので悔しい思いもありましたが、ほぼゼロからのスタートを考えると大成功だったと思います。2回目の公演を2年後に考えていたのですが、2020年のコロナ禍の真っ只中で中止せざるをえなくなってしまって。

 

コロナ禍でも表現活動は続けてきたのでしょうか?

 

小田:
「表現活動は不要不急なのではないか?」という議論もあって、一時は活動を諦めかけていました。そんな中、職場の若手教員たちと話をする機会があり、コロナ禍で教員同士の横のつながりが持てない現状を知りました。そこで考えたのが、「50人の先生チーム(JUMPER!!)」というプログラムです。50人の教員が、5日間で一つの作品を作り上げようと。多方面に声がけを行なって、新潟市内外の新採用の先生から教頭先生まで、小・中・高の先生方が参加してくださいました。
3回練習を終えた時点で緊急事態宣言が出て、公民館が使えなくなるというハプニング、直前で辞退することになった先生もいましたが、スタッフと相談して最後は映像として作品を残すことができました。この経験から、先生たちにこそ他の職種の人との関わりが必要だと感じ、翌年は異業種50人でチームを創って「にいがた総おどり」に参加し、さらにアカペラとダンスをコラボレーションした「ACADANISM(アカダニズム)」も立ち上げました。

Niigata , New , Next , Nakama=N:birth(エヌバース)という活動へ

N:birth(エヌバース)が誕生したのは。

 

小田:
2022年の5月頃、異業種で集まった50人のチームで「にいがた総おどり」に参加する準備をしながら、ACADANISMの活動を始めていたタイミングで、コモンビートから地方展開の話をいただきました。コロナ禍で財政が厳しくなり、以前のように年間7本もの公演ができない中で、その一発目として新潟を選んでいただいたんです。このチャンスを逃すと一生できないかもしれないと思い、引き受けることにしました。

 

どのように団体の立ち上げを決意されたのでしょうか。

 

小田:
9月の「にいがた総おどり」が終わった時点でミュージカル開催を発表し、今後の方向性について話し合いを重ねました。その中で、東京で開催するコモンビートと同じ参加費やチケット価格では、新潟の開催は難しいという現実が見えてきました。一方で、新潟で団体を立ち上げれば、参加費やチケット代を自分たちで決められる。ただし、コモンビートのバックアップはつかず、自分たちで進めていく必要がある。そういった選択肢を検討する中で、新潟独自の団体を立ち上げることを決意しました。「にいがた総おどり」やACADANISMの活動を通じて関わってくれた方々に声をかけたところ、それぞれの得意分野で協力を申し出てくださいました。異業種の方々も含めて運営部が形成され、202211月にN:birthを立ち上げることができました。

心震える体験や感動を、子どもたちにも伝えたい

これまで数々の表現活動の場を経験し、自ら立ち上げも行なってきました。
その中で、小田さんがモットーとされてきたことは。

 

小田:
何事も「心震える瞬間を大切にしたい」と考えています。せわしない日常の中で、コロナ禍を通してより強く感じたのは、感動する経験の必要性です。それは作り物では絶対にできない、汗や涙、時には泥臭さも含めた本物の体験でなければならないと思っています。
効率や便利さばかりを優先して、人のぬくもりや温かさを忘れていくような社会になるのは絶対に嫌です。だからこそ意図的に心が動く瞬間を作っていきたいですし、一人でも多くの人にそれを体感してもらいたいです。

 

表現活動には教育者としての思いに通じるものがありますか。

 

小田:
教員として働くようになってから教育現場の課題について、身を持って深く考えるようになりました。子どもの現状の背景には家庭環境や社会の問題があって、それを変えていくためには、まず大人が気付いて変わっていかなければならないと考えています。周りの大人たちも自分のこととして捉え、教育現場に関わる人が増えれば、何かが変わるかもしれない。だからこそ、N:birthは「大人が変われば、子どもも変わる。そして社会も未来も新潟も変わる」という信念のもとで活動しています。

 

今後の活動についてのビジョンを教えてください。

 

小田:
N:birthでは、表現活動に関わりたい人たちのためのプログラムを組んでいますが、それだけではまだ物足りないと感じています。学校訪問やパフォーマンスなど、新しい可能性も探っているところです。N:birthは持続可能な団体として成長させていきたいですし、これからもやりたいと思ってくれる人たちが活動できる環境を作っていきたいです。また、今年の756日に新潟テルサで新潟2100人ミュージカル公演を行います。詳細は追ってHPなどで発信するので、要チェックしていただけたら嬉しいです!

 

ありがとうございました!
最後に、明和義人祭へのメッセージをお願いします。

 

小田:
2007年の市民ミュージカルから始まり、お祭りとして発展させてきたとのことで、新潟を盛り上げたいという思いや、文化を通じて人をつなげていこうという点で、私たちの活動とコンセプトが重なるように感じました。活動を知ることで広がりが生まれると思いますので、これからも誇りを持って強く発信を続けていってほしいですし、お互いの活動を高め合える関係が築けたらと思います。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。