阿部さんは2024年の明和義人祭で、岩船屋佐次兵衛役を務められました。
お祭りに参加されての感想や、当日の街の様子をお聞かせください。
1956年生まれ、1980年に第一印刷所(現:DI Palette)入社。営業職を12年務めた後、社内企画部門の立ち上げに携わり、印刷業からイベント企画、情報発信まで事業の幅を広げる。現在は本業の印刷業の他、街づくりに関する団体などにも関わり、活動域を拡大中。2024年の「明和義人祭」で岩船屋佐次兵衛役を務めた。
阿部さんは2024年の明和義人祭で、岩船屋佐次兵衛役を務められました。
お祭りに参加されての感想や、当日の街の様子をお聞かせください。
阿部:
「明和義人」という言葉は知っていたのですが、実はお祭り自体を見るのも参加するのも初めてでした。普段は新潟市の北区に住んでいることもあって、週末は古町界隈に来ることが少なかったんです。今回は、古町七番町の理事をさせてもらっているご縁で、参加することになりました。
祭り全体を経験して感じたのは、まだまだ可能性が広がる余地があるということです。例えば、現在は6番町より上(かみ)が中心ですが、七番町から下(しも)も含めた古町全体の祭りとして発展させていけるのではないでしょうか。
街全体で関われる機会を増やすことで、より多くの市民の方々に参加していただけるのではないかと感じました。
明和義人についての理解を深める上で、印象に残ったプログラムはありましたか。
阿部:
祭りの合間に、古町演芸場で「明和義人伝」の劇を拝見させてもらったのですが、これが非常に良かったですね。この劇を通して、明和義人の歴史や意義を理解することができました。
来年以降、この劇をもっと多くの方に見ていただける機会があるといいですね。例えば、古町のデジタルサイネージで上映したり、コンパクトにまとめた映像を街なかで流したりできれば、市民の皆さんにも歴史への理解が広がるのではないでしょうか。
この祭りには、新潟の歴史の中で、市民が主体となって街を動かしてきた精神が込められています。その魅力をより多くの方に知ってもらうことで、現代の街づくりにも活かしていける可能性を感じました。
阿部さんは古町商店街の組合活動やまちづくりなど、多方面で活躍されていますが、ご本業は印刷業。
DI Palette(前・第一印刷所)に入社されて43年、現在は代表取締役専務執行役員として、情報コンテンツ業界の最前線にいらっしゃいます。入社当時からの歩みについてお聞かせください。
阿部:
入社をして最初の頃は、営業を12年間担当しました。当時、先輩方は県庁や市役所、大手銀行などいわゆるA級のクライアントを担当されていました。一方で私はというと、比較的規模が小さい案件を担当することが多く、「このままでいいのだろうか」という漠然とした危機感があったんです。
でも、そこから新しい可能性が見えてきたこともありました。
大手企業のお客様は、広告代理店も入って縦割りの仕事になりがち。ですが、小規模のお客様は、私たち印刷営業が一緒になって新しいものを創り上げていくことができました。
印刷だけでなく、例えばイベント企画やホームページ制作など、お客様のニーズに合わせてその都度必要なものを考えて、ワンストップでサービスを提供していきました。
映像環境を整えて編集スタジオに入り、自分で絵コンテを描いたりしたこともありました。もうここまで来ると、印刷会社という範疇を超えていましたね(笑)。お客様が求めるものや面白いものを、お客様や協力会社の皆さんと一緒に創り上げていく楽しさを実感できた時期でした。
その後、36歳で社内に企画部門の立ち上げを提案されたそうですね。
阿部:
その時は「このまま印刷の仕事だけでは、会社の未来がない」という思いで必死でした。当時はパソコンもないような時代でしょう。鉛筆で企画書を書いて役員会で持ちかけたんです。「分かった。ではお前がやれ」と言われた時はプレッシャーと同時に、やっとチャンスを掴んだぞという喜びがありました。手探りのスタートでしたが、多くの方々に支えられて、今の業務形態まで発展させることができました。
印刷会社なのにイベントや企画を手がけることに対して、業界から批判の声もありましたが、お客様の『ありがとう』の一言が励みになりましたね。お客様の要望や期待に応えていく中で、自然と会社の事業の幅も広がっていきました。
明和義人祭でのお姿をアクリルキーホルダーにされたそう。このようなユニークな制作も企画の醍醐味ですね。
印刷業を軸に、古町七番町商店街の理事や「古町どんどん」の実行委員を務めるなど、まちづくりにも深く関わっていらっしゃいます。
街づくりに関しては、どういった経緯で関わるようになったのでしょうか。
阿部:
「なぜ商店街の仕事もしているんだろう」と自分で思うこともあります(笑)。一番のきっかけになったのは、印刷サービスの提供やオリジナル商品開発・販売を行う当社のショップ「情報工房DOC」ですね。「情報工房DOC」が古町七番町にある「新潟古町まちみなと情報館」に出店し、運営を任されたことから古町商店街との関わりが始まりました。
その時、商店街の組合に入るように声をかけていただいて。気が付けば商店街の理事になり、古町どんどんの実行委員を務め、来年は実行委員長を任されたという流れです。
私はその昔、新潟青年会議所(JC)に所属していたのですが、面白いことに商店街の活動をしている方々の多くがJCの仲間なんです。お世話になった先輩方が多くいらっしゃるご縁もあって、自然と街づくりの輪の中に入っていきました。
古町商店街の現状について、どのような課題を感じていらっしゃいますか。
阿部:
率直に申し上げて「商店街」という名前は付いているものの、実際の店舗が減少していることが大きな課題です。特に6番町、七番町あたりは昔の活気が失われています。大和や三越の撤退以降、商業の街としての性格も大きく変わってきました。
これからの商店街やまちづくりについて、どのようにお考えでしょうか。
阿部:
市民主体の街づくりが必要だと考えています。実は、明和義人祭で演じた岩船屋佐次兵衛の時代と重ねて考えることが多いんです。当時の新潟は、町民が主体となって街を動かしていた。今でいう『民間主導』のまちづくりが行われていたわけです。かつての商人たちが持っていた自主性こそ、現代に必要なのではないかと感じています。
街づくりは、一朝一夕には進みません。でも、この街で商売をさせてもらっている一人として、次の世代に少しでもいい形でバトンを渡していきたい。そんな思いで、日々活動を続けています。
街づくりの活動を通じて、新潟の地域活性化についても精力的に取り組まれています。
新潟の未来について、どのようなビジョンをお持ちでしょうか。
阿部:
新潟の現状を見ると人口は減少し、産業は衰退し、農業の担い手も不足している。このままではいけないという危機感を強く感じつつも、地場産業である私たちの印刷業も、地域の活力なくしては成り立ちません。だからこそ、いかにこの地域を盛り上げていくかが重要だと思っています。地域の発展と企業の成長は表裏一体なんです。
具体的にどのような取り組みを考えていらっしゃいますか。
阿部:
例えば、朱鷺メッセを活用したコンベンションの誘致を通じて、全国規模の大会やイベントを新潟に呼び込む。昨年は商工会議所女性会の全国大会を新潟で開催し、2,300人もの方々に来ていただきました。こうした取り組みを通じて、新潟にお金を落としていただき、新潟のファンを増やしていく。交流人口・関係人口を増やすことが、地域活性化の一つの鍵だと考えています。
また、新潟の強みである農業分野でも、新しい可能性が広がっています。例えば、魚の陸上養殖や、酒米作りなど、産業を通じた新しい仕組みづくり。テクノロジーを活用したスタートアップ企業の参入も期待できます。
以前、通産省(現・経済産業省)の元官僚で小説家でもあった堺屋太一さんが「市の予算の1%を特定分野に10年集中投資することで、世界に冠たる特色ある都市になれる可能性がある」と講演で仰っていたことがありました。私はその可能性を今も信じています。
どういったことがキーワードになりそうでしょうか。
阿部:
新潟ならではの産業育成、この時代に合った「新潟らしさ」を作っていくことでしょうか。
例を挙げると、新潟と言えば米どころですが、ただ米を作るだけでなく、その先の可能性を追求すべきと考えています。米を原料とした新素材開発や、最新技術を活用した農業の仕組みづくりなど、研究開発から製造、販売まで一貫して新潟で行える体制を整える。これが一つの方向性です。
研究機関の誘致も重要で、新潟の米や酒、食品加工などの分野で、最先端の研究開発を行える環境を整備し、そこで生まれた技術やノウハウを地域の企業が活用できる仕組みを作る。また、魚の陸上養殖や、酒米作りの新しい仕組みなど、若い世代の斬新なアイデアを形にできる支援体制も必要でしょう。
大切なのはこれらの取り組みを個別に進めるのではなく、総合的な産業育成策として展開すること。研究開発、人材育成、企業支援が有機的に結びついてこそ、真の産業振興が実現できると考えています。
ありがとうございました。
最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。
阿部:
この明和義人祭には市民が主体となって街を動かしてきた誇るべき歴史が込められています。私たちが受け継ぐべきは、その進取の精神と行動力ではないでしょうか。
市民主体の活力ある街づくりを目指す。そのためにも、この祭りを通じて、新潟の人々が持っていた自主性と革新の精神を学び、伝えていきたいですね。
明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。