「明和義人伝~モダンタイムズ~」第21回 : 庭山愛子さん

プロフィール

庭山愛子さん
株式会社エイト代表取締役

1982年、阿賀野市生まれ。アパレル勤務を経て、家業で産業廃棄物処理施設の経営に携わった後、宮城県へ移住し、2017年に新潟にUターン。2020年に株式会社エイトを創業。事業構想大学院大学プロジェクト研究員、エシカルコンシェルジュ認定、環境リーダー養成講座修了など多様な経験を積む。2児の母。

ビーチクリーン活動からトレーラーハウスの販売、サスティナビリティコンサルティングなど、持続可能な社会と環境を目指し活動する「株式会社エイト」。代表取締役を務める庭山愛子さんが中心となって、地球や自然環境を大切にしながら、子どもたちが快適に暮らせる未来を目指す、独自の事業に取り組んでいます。庭山さんが自然や環境に興味を持ったきっかけから、起業の経緯、現在の活動内容、今後の展望についてもお聞きしました。

幼い頃に培われた環境への意識

庭山さんが代表を務める「株式会社エイト」では、環境問題や資源循環型社会に向けて取り組まれています。まずは庭山さんが環境や資源に興味を持ったきっかけから、教えていただけますか。

 

庭山:
環境問題を意識しはじめたのは、本当に小さい頃からです。私は建設業を営む家で生まれ育ったのですが、子どもの頃に読んだ、とある本の中に建設業が環境破壊の悪役として描かれていたことがありました。家業である建設業=環境への悪といったようなイメージを抱かれることに、子ども心に複雑な思いを抱いたのを今も覚えています。また、小学1年の頃からガールスカウトに所属していて、ゴミ拾いや植樹活動を経験しました。特にゴミ拾いが大好きで、キャンプよりもゴミをひたすら拾って周りが綺麗になっていくことに達成感を感じるような子どもでした(笑)。この頃から自分が自然や環境にできることは何だろう?と、考える癖がついたのかもしれません。

 

ご実家の建設業で経営にも関わられたそうですね。

 

庭山:
新卒でアパレル業界に入社したんですが、その後20代半ばで実家が営んでいた建設業の子会社立ち上げに参画し、経営全般を任されることになりました。若くして経営の醍醐味を味わう貴重な経験ができたのですが、その数年後に親の会社が倒産してしまいまして。私の事業は新潟に残し、夫の仕事でご縁のあった宮城県に移住することになったんです。2016年に一人目の子どもを出産したのですが、宮城でできたママ友から聞いたのは、東日本大震災の生々しい体験談でした。震災から5年が経っていましたが、震災の痕跡や経験が現在進行形で被災地の方々の暮らしに影響を与えていると感じたんです。特に印象的だったのは、周りの方々の防災意識の高さですね。この経験が、私の中で眠っていた環境問題への関心を再び呼び覚ますことになりました

被災地での経験を生かし、防災意識の普及を図る

新潟には2017年に戻られて、2020年には「株式会社エイト」を立ち上げました。その経緯やその間の活動についてもお聞かせください。

 

庭山:
実は夫に手術が必要になったこともあり、新潟へ戻ることになりました。宮城での経験をもとに、地元である新潟で環境や防災について広めていきたいと思っていたタイミングでもありましたが、たまたま海外のサイトでトレーラーハウスというものを見つけたんです。調べてみると災害に強く、環境に配慮された材料で作られていて、非常にサステナブルなものだということが分かりました。これからの時代に必要となってくるのでは、とまずはトレーラーハウスをあらゆるところでPRをしたのですが、反応は「トレーラーハウスって何?」となかなか知名度が上がらず…。それなら防災意識普及を図ろうと、返礼品を防災に特化したものに設定したクラウドファンディングを行いました。

 

周りからの反応は。

 

庭山:
クラファンがきっかけで地元のメディアにも取り上げていただき、周りの子育て世代の方々にも「こんな製品があるんだ!」と知っていただく機会になりました。私の活動をきっかけに、家庭内の防災対策を見直したという声もいただいたのも 嬉しかったですね。残念ながらクラファンは不成立だったのですが、それを機に本格的に環境や防災への事業に取り組んでいこうと、2020年12月にエイトを立ち上げました。最初の1年は夫も手術後の療養中だったりと、子育てをしながら起業することの大変さを痛感しましたが、逆に子どもの存在が私の原動力になっていましたね。子どもたちの未来のために、持続可能な社会を作らなければいけないという思いが、活動の原動力でした。

持続可能な環境や取り組みをバックアップ

「株式会社エイト」設立後は、トレーラーハウスの普及だけでなく、自然や環境への問題に幅広く携わっていらっしゃいます。

 

庭山:
会社設立後はトレーラーハウスの普及活動だけでなく、ビーチクリーン活動や環境教育、サスティナビリティコンサルティングなど、事業の幅を広げていきました。ビーチクリーン活動は「海さくら」という世界規模でビーチクリーンを行っている団体の新潟代表を務めさせていただいています。私たちのビーチクリーンは、毎月第2土曜日に新潟市の日和山浜で活動しています。今年で3年目になるのですが参加者が徐々に増えてきて、この前は110人もの方が参加してくださいました。ビーチクリーン=単なるゴミ拾いではなく、参加者の方々にとってリフレッシュの時間になったり、コミュニケーションの場にもなっているのを実感しています。最近は企業単位で参加される方々も増えていて、チームビルディングの機会にもなっているようです。ビーチクリーンは、子どもの頃のゴミ拾いの楽しさを思い出しますね。私はゴミを拾うことで心の中も整理されるというか、気持ちがスッキリする感覚が本当に好きなんです(笑)。

 

ゴミ問題は多岐に渡りますよね。

 

庭山:
海洋ゴミの問題は海辺だけのものではないことを、ビーチクリーンを通じて実感しています。海洋ゴミの7割が川、つまり私たち人間の生活と直結しているといわれていて、そこから向き合っていきたいと思っています。新潟は水の都といわれていますが、街と川、海の距離が近いからこそのゴミ問題も深刻なので、海だけではなく新潟の水辺を包括的に守るアクションを継続していきたいです。

 

「サスティナビリティコンサルタント」の仕事についてもお聞かせください。

 

庭山:
サスティナビリティコンサルタントは、簡単にいえば環境や地球、SDGsへの取り組みなどで具体的に何をどうするか、コンサルティングを行う仕事です。多くの企業が SDGs に取り組みたいと思っていても、具体的にどうしたらいいかわからないというケースも多いように感じます。弊社ではSDGsに取り組むことで、企業にとっても、そこに働く従業員の方にとっても、そしてもちろん地球にとってもプラスとなるようなご提案をいたします。企業として持続可能な社会づくりに貢献し、企業価値を高めるための活動の一環として、セミナーの開催や、企業向けのCSR活動のディレクションなども行っています。例えば、企業の方々に清掃活動として、ゴミを拾うという共通の目標に向かって活動していただくことで、コミュニケーションが生まれたり、チームビルディングにつながったりします。首都圏では、こういった活動が離職率の低下にもつながっているそうです。

 

最近では「エイトコーヒー」を立ち上げたそうですね。

 

庭山:
「エイトコーヒー」は夫と共に運営している、エイトの事業の一つです。人も地球も動物も、みんなが幸せになるエシカルでサスティナブルなコーヒープロジェクトをテーマとして掲げています。使用する資材は全て自然に帰るバイオマス製品ですし、コーヒー豆も県内の専門学校生がSDGs授業の一環で開発したものを使用しています 。また、売り上げの一部は小児がん支援をされている団体へ寄付をさせていただいています。エイトコーヒーのエシカルに配慮したコーヒーを飲んでいただいて、地球や未来の環境について考える場になれたらと考えています。

小さなこと、身近なことから始める環境活動を

庭山さんが活動する中で大切にしているポリシーはありますか?

 

庭山:
「八方よし」の精神です。これは従来の「三方よし」の考え方を拡張したもので、お客様、取引先、自社だけでなく、社員、株主、地域社会、環境、そして経営者自身も含めた8つのステークホルダー全てにとって良い状態を目指すという考え方です。エイトという社名にもその意味が込められています。この「八方よし」の精神は、0から1を生み出す上でも非常に重要だと考えていて、新しいことを始める際には、それが本当に多くの人や環境にとって良いものなのか?を常に考えるようにしています。そして、「行動すること」も非常に重要だと思っています。頭の中で考えているだけでは何も変わりませんから、例え小さなことでも、まずは行動に移すことが大切だと思います。私もまさに「もし失敗をしたとしても、行動しないで後悔するよりいい」というタイプです(笑)。

 

自然や環境に関することは、身近なところから始めようと思っても、なかなか難しいと思う人も多いかもしれません。気軽に始められる環境活動やSDGsの取り組みについて、アドバイスをいただけますか。

 

庭山:
本当に身近なことでしたら、ゴミの分別をきちんとすることから始めてみてはいかがでしょうか。これだけで捨てるゴミの量がぐっと減りますし、買い物の際に環境に配慮した選択を大切にできるようになります。必要なものを必要な量だけ購入する、使い捨て製品を避ける、地元の製品を選ぶなど、小さな選択の積み重ねが大きな変化を生み出します。「買い物は投票」です。私たちが何を選んで買うか、その選択の積み重ねによって、世の中がどんどん変わっていくと思います。

 

そう聞くと「明日からできるかも!」と思えますね。

 

庭山:
そうなんです。意外と身近なところにできることが沢山あるんですよね。あとは、家庭菜園やコンポストの利用も楽しいですよ。コンポストを活用することで家庭ゴミを大幅に減らすことができますし、自分で育てた野菜やハーブを食べることは、食育にもつながりますし、フードマイレージの削減にも貢献します。ベランダでもできるコンポストなどもあるので、気軽に始めてみていただきたいですね。私たちは、こういった小さな行動の積み重ねが、100年先の地球を変えると信じています。「今」あるものを大切に、地球にも自分にも優しいライフスタイルを広めていくこと。これがエイトの使命であり、日々の活動の原動力となっています。例え些細なことであっても、継続して取り組むことで、自分自身にとってはもちろん環境にも優しい社会に繋がるよう、持続可能な未来の実現に向けて取り組んでいきたいです。

 

ありがとうございました。
最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。

 

庭山:
私自身、歴史や伝統文化に強い関心がありまして、明和義人祭はそういった面でとても魅力的な祭りだと感じました。昔の街の人々がどのように生きてきたのか、どんな知恵や技術を持っていたのかを知ることができる貴重な機会になりますし、現代とは全く違う時代を生きてきた人々の生きる術を学べるのは、とても新鮮で勉強になります。特に、ビーチクリーン活動の拠点である日和山浜は、当時の港町としての古い歴史があるという点もとても特徴的で魅力があると思います。古くからの歴史を大切にしながらも、未来に向けたアクションも大切に、環境にも配慮した取り組みとして例えば祭りの後のゴミ拾いを地域の方々と一緒に行うことで、環境意識を高める機会にもなりそうです。そういった意味でも今後ますます発展が期待できるのではないでしょうか。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。