「明和義人伝~モダンタイムズ~」第20回 : 綱本麻利子さん

プロフィール

綱本麻利子さん
一般社団法人「Smile Story」代表理事

1979年、新潟市内野町生まれ。新潟市立内野小学校のPTA活動をきっかけに、子ども食堂の運営、海岸清掃などの地域活動をスタートし、2021年に一般社団法人Smile Storyを設立。高校生と中学生の姉妹の母。スポGOMIワールドカップ2023では「Smile Story」として初出場し、初代日本チャンピオンに輝く。学校法⼈新潟⻘陵学園評議委員も務める。

海岸清掃から子ども食堂の運営、未利用魚の活用など、新潟市西区に拠点を置いて多角的に活動する「Smile Story」。地域の子どもの居場所やフードロス、環境問題まで幅広く取り組んでいます。その中心人物となるのが、「Smile Story」の代表理事を務める綱本麻利子さんです。綱本さんが「Smile Story」を設立したきっかけから現在取り組んでいることなど、活動への想いを尋ねます。

地域で交流を、社会でつながりの場を

綱本さんは一般社団法人「Smile Story」の代表理事を務めていらっしゃいます。
Smile Story」はどういった活動をされているのでしょうか?

 

綱本:
Smile Story」は新潟市西区を中心に、地域内外に向けたさまざまな活動を行っています。コンセプトとしては「場の提供」と「人と人をつなぐ」ことで、メインとなる事業は子ども食堂の運営、定期的に開催している海岸清掃です。他にも地元の新川漁港でのイベント実施、フードロスや未利用魚と呼ばれる漁で獲れても流通しない魚の活用など、年々活動内容が増えているような気がしています(笑)。

 

地域の子どもたちに関わる事業から、環境や食の問題へ切り込む活動と幅広いです。

 

綱本:
そうですね。子ども食堂は「さくら食堂」という名称で運営していまして、桜って内野のシンボルマークでもあることからこの名前にしました。通常ですと、子ども食堂は場所が固定されているケースがほとんどかと思いますが、「さくら食堂」は一応「Smile Story」の活動拠点がベースにはなっているのですが、固定の場所を持たない「モバイル子ども食堂」というコンセプトで活動しているんです。例えば、毎月第2土曜に開催している海岸清掃が終わった後に朝食を配るといったことも、「さくら食堂」の活動になっています。
今では子どもだけでなく、地域の高齢の方など、あらゆる世代の方々が集い、つながる場を提供するようになりました。それぞれの活動は一見バラバラに見えるかもしれませんが、全ては「人と人とをつなぎ、より良い社会を作る」という目的につながっているのです。あとは、「Smile Story」が設立する前から続けている海岸清掃イベント「スマイルクリーン」です。これは毎月1回、地域の方々と一緒に海岸のゴミ拾いを行うイベントで、海岸の環境保全だけでなく、参加者同士の交流も深まる場になっています。小針浜や五十嵐浜と新潟市西区の海岸が中心ですが、回を追うごとに参加者が増えてうれしく思っています。

子育ての葛藤を経て、地域に根ざした活動へ

綱本さんが「Smile Story」を設立するまでの経緯を教えていただけますか。

 

綱本:
経緯は話すと長くなります(笑)。私は2人の娘がいて、上の子が小学4年生の頃までは完全な専業主婦として子育てに専念していました。正直言うと、当時の私は子どもの人生を自分の思い通りに動かそうとするような、少し行き過ぎた子育てをしていた時期がありまして……娘にフィギュアスケートを習わせていたのですが、競技に打ち込ませるあまり、学校にも行かせず人間関係に悩むなど、精神的にも辛い日々を過ごしていたんです。そんな中で、ふとした時を境にもう「プツーーン」と自分の中で何かが吹っ切れまして(笑)。何がきっかけだったというわけではないのですが、日頃の鬱憤が爆発したんでしょうね。私の中で考え方は大きく変わって、娘のフィギュアスケートを辞めさせて「自分の人生を歩んでいいんだよ」と伝えたんです。それを機に子どもの気持ちに寄り添い、自主性を尊重する子育てをして行こうと思っていた中で、上の娘が小学4年生の時にPTA活動に携わる機会がありました。PTA活動を通して地元の方々と接することで、生まれ育った地域に目を向けることになったんです。

 

Smile Story」の設立につながった活動は、その時から始まったのでしょうか?

 

綱本:
そのきっかけにもなったのが、今も続けている「スマイルクリーン」の原点でもある海岸清掃です。新型コロナウイルスが猛威を振るっていた2020年に始めたのですが、娘から「海岸清掃をしたい」と言われたことがきっかけでした。娘は以前から、学校の授業で海洋ごみの問題を学び、海岸清掃に興味を持っていたようです。ですが、当時の私は海が身近な内野に生まれ育ったにもかかわらず、海が苦手で魚も食べられない(笑)。なかなか娘の希望に応えられずにいたのですが「ウイルス禍での外出自粛が続く今ならば、屋外で人との距離を保ちながら、安全に清掃活動ができるのでは?」と思い至ったんです。ここが行動を起こすチャンスだと。

 

ウイルス禍というピンチが、逆にチャンスになったと。

 

綱本:
そうですね(笑)。最初は身内や友人に声をかけ、13 ⼈でスタートしました。ママ友や知り合いに声をかけて、2 回⽬には 60 ⼈以上が集まりました。その後も SNS や⼝コミで告知を続けていき、参加者は増えていきました。ウイルス禍で外出が制限される中、親子連れの方などから「知り合いと会えるこういった機会はありがたい」といったうれしい声もありました。さらに、参加者の方から「朝食を食べたい」というリクエストがあったことがきっかけで、海岸清掃とセットで食事を提供する「子ども食堂」のアイデアが生まれました。行政や地域の方々にも相談し、賛同者を増やしていく中で、あっという間に「さくら食堂」の開設にこぎつけたんです。

 

「さくら食堂」は先ほどお話しされていたように、移動式で展開されています。

 

綱本:
「さくら食堂」は当初、決まった場所で開催していたわけでなかったので、会場の確保が課題になっていました。そこで考案したのが「移動式子ども食堂」というコンセプトです。公民館や小学校など、その時々で場所を変えて開催することで、より多くの方に参加していただけるよう工夫しました。子ども食堂を運営する中で痛感したのは、「居場所」や「つながり」を求める人が想像以上に多いということ。ウイルス禍でそういったニーズがより顕在化したのかもしれませんね。子ども食堂が単なる食事の提供の場ではなく、地域の交流の場としても機能していることを実感しました。

フードロス、環境保全も独自にアプローチ

スマイルクリーン(海岸清掃)、子ども食堂の活動をスタートしましたが、これらを通じて生まれた活動もあるそうですね。

 

綱本:
スマイルクリーンの活動が、地元の新川漁港との繋がりを生む第一歩になりましたね。娘が通う小学校の校長先生を通じて新川漁港の方々をご紹介いただいたのですが、漁協の皆さんと一緒に地引き網のイベントを企画したり、漁師の方々からは未利用魚が多く出ていることも教えていただきました。未利用魚とは鮮度も味も申し分ないのに、見た目や大きさが規格に合わないため流通されない魚のことなんですが、ワニエソやミシマオコゼ、アカエイなど、⾷べることができるはずの魚が無駄になっている現状があったんです。この現状を知ってからは、未利用魚を子ども食堂の食材として活用したり、地域の小学校の総合学習のテーマにして魚のハンバーガーを作ったりしながら、地域の海の現状を知ってもらうために奔走しましたね。ここ最近は、未利用魚を使った新商品の開発にも力を入れています。例えば、ワニエソを使った魚醤や焼き干しなどの商品化は福祉施設と連携して製造を考えていますし、未利用魚を使用した堆肥づくりにも取り組む予定です。未利用魚の可能性を広げながら、フードロスにも貢献していきたいです。

 

Smile Story」はスポGOMI(スポーツごみ拾い)でも話題になりました。

 

綱本:
実は世界大会初出場で準優勝という偉業を成し遂げてしまいました(笑)。「スポGOMI」はごみ拾いにスポーツのエッセンスを加えて、今までの社会奉仕活動を競技へと変換させた日本発祥の全く新しいスポーツです。スポGOMIとの出会いもスマイルクリーンがきっかけだったのですが、毎月欠かさず地域の方々と一緒にごみ拾いを続ける中で、ごみがどういった場所に多くあるかという“勘”と、ごみを素早く拾っていく“技術”のようなものが自然と身に付いていたんですね。県大会、日本大会と優勝して、渋谷の街のごみ拾いを競った世界大会では90分で55kgのごみを拾い集めて準優勝したんです!テレビや新聞などでも大きく取り上げていただきました。ごみ拾いは落ちているごみの多さを知ることになりますし、環境問題解決に向けた活動の一つでもあります。これからもスマイルクリーンやスポGOMIを通じて、環境問題への関心を持ってもらえるよう取り組んでいきたいですね。

世代を超えた笑顔と活気を生み出すために

多種多様な活動を続ける中で、心がけてきたことはありましたか。

 

綱本:
当初からとにかく「YESと言うこと」「継続すること」を心がけてきました。例えば、海岸清掃で参加者の方から「朝食が食べたい」とリクエストをいただいた時も、すぐに「はい、やりましょう!」と答えました。経験もノウハウもない中での決断でしたが、とにかくチャレンジしてみようと。海岸清掃を始めてからは、天候に関わらず毎月欠かさず実施してきました。雨の日も、風の日も、時には冬の砂嵐の中でも行いました。継続することで活動の意義や想いが多くの方に伝わって、協力者の輪が広がっていったように感じています。

 

綱本さんが大切にしているポリシーは。

 

綱本:
「世のため、人のため、他がために」ですね。常に感謝の気持ちを忘れず、愛を持って人と接することです。もし自分の中に愛や感謝の気持ちがなくなったら、それは間違った方向に進んでいる証拠かもしれません。また、失敗を恐れずに挑戦することも大切にしています。たとえ周りから「できない」と言われても、信じる道を突き進む。そうした挑戦の積み重ねが、今の私の活動につながっていると思います。そして何より、人とのつながりを何よりも大切にしています。私の活動は、人と人との関係性が9割を占めていると言っても過言ではありません。多くの方々に支えられ、励まされながら、今日まで歩んでこられました。活動を続ける中で、この街の魅力や可能性に気付かされました。

 

活動の中で地域への思いが生まれてきたのですね。地域貢献についてはどのように捉えていますか。

 

綱本:
正直、活動を始めた当初は地域貢献をしようという意識はなかったんです。生まれ育った内野の街を、特別に愛しているわけでもなかったのですが、地域の子どもたちや高齢者の方々との関わりを通じて、世代を超えた交流が笑顔と活気を生み出すことを実感するようになりました。地域貢献といってしまうとおこがましい気もしていますが、内野の活性化が新潟市西区の活性化につながり、新潟市さらには新潟県の活力になれたらうれしいです。

 

ありがとうございました。
最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。

 

綱本:
実をいうと、明和義人祭は知らなかったのですが、身分を超えた人々の連帯や困難に立ち向かう勇気といったメッセージ性は、今を生きる私たちにも通じるものがあると感じています。ぜひ機会があれば、「Smile Story」として参加してみたいですね。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。