「明和義人伝~モダンタイムズ~」第19回 : 三上昌史さん

プロフィール

三上昌史さん
株式会社Gugenka 代表取締役CEO

広告制作プロダクションを経て、2003年に前身となるシーエスレポーターズを起業し、アニメやゲーム、ITを活用した独自の事業を展開。2016年からVR事業を開始し、2021年にはXRを事業の中心に据え社名をGugenkaに改める。XRプロデューサーとして初音ミク公式バーチャルテーマパーク「MIKULAND」や、サンリオのバーチャル音楽フェス「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」など、数多くのARVRのプロジェクトに参加する他、デジタルフィギュア「HoloModels」、アバター制作アプリ「MakeAvatar」などの自社オリジナルサービスも開発・提供。

新潟市に本社を置き、アニメやゲームなどのデジタル世界と現実世界を融合させたサービスを提供するGugenka。日本ではアニメやゲームが文化の一部として深く根付いており、Gugenkaでもデジタルコンテンツの力を活用し、AR、VR、MRといった最新テクノロジーを駆使することで、現実世界をより豊かに拡張していくことを目指してきました。その中で、子どもの頃からアニメやゲームに親しんできた経験を原点に、常に新しいことにチャレンジし続けているのが代表取締役CEOの三上昌史さんです。Gugenkaが目指す未来像やXRの可能性、コンテンツづくりにかける想いに迫ります。

幼い頃から好きだったものをカタチにする仕事

Gugenkaという会社名の響きが印象的ですね。
まずはGugenkaについて教えていただけますか。

 

三上:
私たちの会社は新潟市を活動の基盤として、ゲームやアニメに関する仕事に取り組んでいまして、バーチャル世界とリアル世界をXRVRARMR)で融合させることをミッションに掲げたクリエイティブスタジオです。Gugenka(グゲンカ)という社名も、その名の通り「具現化」という言葉を意味しています。

 

そもそも三上さんがアニメ・ゲームに関わる仕事をするようになったきっかけは。

 

三上:
私の父がデザイナーだったので、物心ついた頃からさまざまなデザインに触れる機会が多かったこと、あとは私自身が子どもの頃からアニメやゲーム、キャラクターが大好きだったこと、これに尽きると思います。ガンダムには特に思い入れがあります(笑)。短大卒業後は新潟のデザイン会社に就職した後に独立して、ウェブサイトの制作やプロモーションなどを行う会社、シーエスレポーターズを立ち上げました。その時に有名な映画会社のプロモーションも任せていただいたのですが、やっぱり自分でも作品を作りたいなって思うようになって。2000年代後半くらいから、オリジナルのアプリ開発にシフトし、2021年にXR事業を中心に据えて事業の再編を行い、社名もGugenkaに変更して現在に至ります。

デジタルとエンタテイメントの恩恵をリアルの世界で

Gugenkaで取り組むXR事業、サービスとはどういったものがありますか?

 

三上:
主な事業としては、自社ブランドでもあるVR/ARデジタルフィギュアビューワーの「HoloModels」、メタバースで使える3DCGアバター制作アプリ「MakeAvatar」、デジタルプロダクト専用のメタバースマーケット「XMarket」などがあります。また、バーチャルコマースやイベント、ライブ配信なども手がけており、さまざまな有名企業とのコラボレーションも行っています。私たちは日本のVR元年と言われる2016年からこの分野に取り組んできた実績があり、ゲームやアニメを中心としたVRARのコンテンツ制作には特に自信があります。世界最大のVRプラットフォームであるVRChatの日本初の公式パートナーにも選んでいただきました。

 

企業に向けたBtoB、一般ユーザーに向けたBtoCのサービスと分かれているのでしょうか。

 

三上:
そうですね。BtoBでは企業様向けにメタバース上でのライブやフェスティバルなどのイベント制作をお手伝いさせていただいています。例えば、サンリオ様のバーチャル音楽フェス「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」今年で3回目の開催となりますが、空間制作から演出、アニメーション、チケットの販売など総合制作を弊社が担当しています。
また、東映アニメーション様の「プリキュア」シリーズとコラボレーションし、バーチャルイベントを共同で主催させていただくなど、ARVRMRといったXR技術を活用した研究開発や実証実験のサポートなども行っています。BtoCの自社サービスとしては、現実空間とデジタル空間を融合させ、日常生活の利便性を高めるようなアプリケーションの開発を進めています。目指しているのは、弊社の強みであるアニメ・ゲームなどのエンターテインメントコンテンツを掛け合わせることで、ユーザーの皆様に楽しんでいただける独自のサービスです。

 

独自のサービスは具体的にどういったものを目指し、開発されているのでしょうか?

 

三上:
BtoCでは現実世界とデジタル世界を融合させることで、皆さんの日常生活をより豊かで便利にすることが最大の目的です。その実現に向けては、AppleVision Proのようなデバイスにも大きな可能性を感じています。例えば、キッチンで料理をしながらレシピ動画を見たり、仕事中に好きなキャラクターを登場させてリラックスしたり…そういった、生活のあらゆる場面でデジタルの恩恵を受けられるようなサービスになります。ただ、Apple Vision Proはまだ装着時の違和感が多少あるため、私たちとしてはよりカジュアルに使えるデバイスの登場を待ちわびています(笑)。スマートフォンが登場した時のように、最初は便利さを追求しつつ、そこに楽しさや豊かさを加えた、多くの方に受け入れられるサービスを作っていきたいと考えています。

日常をより便利に、より豊かにするXRの可能性

三上さんご自身は、XR分野にどのような可能性を抱いていますか?

 

三上:
先ほどもお伝えした通り、一番は日常生活の利便性アップですよね。今でもARでバーチャルに家具を置いてリアルを体感できるサービスなどが提供されていますが、それらがもっとリアルタイムに、直感的に操作できるようになるものが生まれてくると思います。現実とデジタルの区別がつかないくらい自然に、シームレスに扱えるようになるんじゃないかな。あとは、立体情報の理解がグッと楽になることも考えられます。例えば、建物やものの設計図なども、慣れてない人には平面の図面からイメージするのは難しいですけど、そこに3Dモデルがスッと現れて、自在に動かせたり覗き込めたりすれば、誰でも構造を一目瞭然で理解できるようになる。要はXRが発展することで、情報をよりリアルにダイレクトに伝えられるようになるわけで、それはどの分野でも大きなインパクトになり得ると思いますね。

 

Gugenkaではメタバースの導入も進めていますが、現状の課題は。

 

三上:
メタバースはまだ広く普及しているわけではないので、無理に推し進めるのは難しいと感じています。私はメタバースはあくまで一つのジャンルだと捉えていて、それを面白いと思ってくれる人たちに向けて提供していきたいと考えています。むしろ、リアルのイベントを入り口にして、メタバースに興味を持ってもらえたらいいかなと。私はリアルな体験や人と人とのつながりも大事だと思っていて、メタバースはそのリアルな体験をより豊かにするためのツールにもなると捉えています。

 

「リアルな体験をより豊かに」との思いは、2023年の新潟まつりでの初音ミクのバーチャルライブでも表れていたように感じます。

 

三上:
そうですね。昨年の新潟まつりで初音ミクのバーチャルライブを実施させていただきましたが、リアルとデジタルを融合させた新しい形のエンターテインメントを提供できました。花火の観客はスマートフォンを用いてARで初音ミクを召喚し、ミクと一緒に花火を楽しむことができましたし、スマートフォンを持っていない人でも、大迫力の花火と音楽を体感できる演出でした。SNSではたくさんの方々が初音ミクとのコラボレーション写真を投稿し、大きな話題となりました。まさにGugenkaが目指す「リアルを豊かに拡張する」というコンセプトを体現するものになったのではないでしょうか。お祭りなどのイベント自体はバーチャル技術を使わなくても成立しますが、でも敢えてみんなでワイワイ盛り上がれる演出を加えることで、お祭りの体験価値を高めることができました。

追求すること、継続することが挑戦の基盤に

三上さんは日々新しいことへの挑戦を続けていらっしゃると思います。
新しいことを生み出すために大切にしていることはありますか?

 

三上:
何よりも大事なのは、自分が本当にやりたいこと、面白いと思えることをとことん追求すること。でも、そこに自分の情熱を存分に注げるかどうかが勝負を分ける。ただ、情熱だけじゃダメで、その情熱を形にしていくためのスキルや知識も必要になってきますが、徹底的に調べて自分の引き出しを増やしていく。それを地道に続けることが、イノベーションを生む土台になると思うんですよね。あとは、チャレンジし続ける勇気も必要かな。失敗を恐れずに、とりあえずやってみる。ダメだったら方向転換すればいいだけの話で。でも、ただやみくもに突き進むんじゃなくて、その裏側にあるストーリー作り、歴史や文脈にもこだわるのも自分流のやり方ですかね。何か新しいことをする時は、なぜそれをやるのか、どんな背景や想いがあるのかをしっかり言語化して、共感を生むようなデザインにしていくことで、大きなうねりを作っていけると信じています。新潟という地域に根差していることも、Gugenkaのアイデンティティを形作る大事な要素なんです。

 

「続ける」ことも大切だと。チャレンジすることにおいて三上さんが意識されていることは?

 

三上:
「それが誰かの役に立つかどうか」です。Gugenkaは企業なので、もちろん利益を出すことも大事です。でも、それ以上に、世の中をちょっとでも楽しい方向に変えられるようなことがしたいなって。だから新しいテクノロジーやXR、メタバースも、単に面白いからやるのではなくて、それが人々の生活をどう豊かにできるのかを常に考えるようにしています。利便性だけでは人の心は動かせませんし、そこにワクワクとかドキドキとか、人の感情を揺さぶるような仕掛けを加えていきたいと思っています。テクノロジーとクリエイティビティを掛け合わせることで、人々の日常に新しい体験や価値を提供できたらと、日々試行錯誤しています。

 

ありがとうございました。
最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。

 

三上:
250年以上も前から受け継がれてきた、新潟の歴史を体現するようなお祭りだと聞いて興味を持ちました。当時の町の人たちの情熱や思いが、今もこうやって脈々と受け継がれていることに、歴史に裏打ちされた“リアル”な魅力があると感じています。せっかく明和義人祭という素晴らしいコンテンツをテクノロジーやエンタテインメントを加えることでその魅力を多くの人に伝えられるんじゃないかなって。それを核にして新潟の魅力を全国、いや世界に向けて発信できたらいいですよね。そうやって新潟の良さを知ってもらうことで、県外からも人を呼び込めるかもしれませんし、古き良きものと新しいアイデアを組み合わせることで、お祭りの体験価値がもっと高まる可能性もあります。そこにGugenkaとしても何か関われたらと考えると、めちゃくちゃワクワクしますね(笑)。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。