「明和義人伝~モダンタイムズ ep~」第3回 : 富山聡仁さん

プロフィール

富山聡仁さん
中央ビルディング株式会社 代表取締役 / 株式会社NEPPU JAPAN 代表取締役 / 一般社団法人新潟今昔写真 代表理事

1980年生まれ。新潟市中央区出身。早稲田大学政治経済学部卒業、グロービス経営大学院修了。2004年に三井物産(株)に入社し、経理や事業投資、貿易業務に関わる。その間に財務省に2年間出向し、東南アジア向け政府開発援助(ODA)プロジェクトなどを担当。2015年に新潟市へUターン。現在は家業であるアルモグループ[中央ビルディング(株)、新潟駐車場(株)、(株)ペット葬祭センター]、中小企業向けの経営コンサルティングを行う (株)NEPPU JAPANにて代表取締役、(一社)新潟今昔写真では代表理事も務める。2022年の第13回「明和義人祭」では、涌井藤四郎役を務めた。

大手総合商社ではさまざまな業務を経験した富山聡仁さん。
2015年に地元新潟へUターンしてからは、これまでの経験を生かし祖父の代からの家業と同時に、中小企業への経営コンサルティング、写真を使ってまちの歴史を掘り起こす活動 と幅広く活躍されています。
2022年の明和義人祭で「涌井藤四郎」役を務め、1箇所にとどまることなく、多角的に仕事に携わる富山さんに仕事観や地域への思いを伺いました。

経営から見えてくる課題。それを解決していく醍醐味

家業であるアルモグループ、(株)NEPPU JAPANでは経営コンサル、(一社)新潟今昔写真など、幅広く活動されています。それぞれのお仕事と、その魅力について教えてください。

 

富山:

2015年に東京から新潟へUターンし、今は主に3つの仕事に関わっています。一つは家業であるアルモグループですが、ここではオフィスビル管理、駐車場開発、ペット葬儀の会社を経営しています。二つ目は自ら立ち上げた(株)NEPPU JAPANでの活動ですが、中小企業向けの経営コンサルティングを行なってます。新潟今昔写真に関しては、昔の新潟を撮影した写真を集め、それを今と比較することで、まちの歴史を深掘りし、発信する活動です。

家業に関しては仕事のオペレーションも人員配置も、私が入社した当初からすでに組まれていて、現場スタッフがしっかりと業務を行える仕組みにはなっていましたが、その中でも改善すべきポイントがあったり、問題が発生したりすることもありました。それらの課題に対して瞬発力をもって対処し、会社を成長させていくことにはやりがいを感じます。(株)NEPPU JAPANにおいてもさまざまな業態の企業の経営に関する悩みを一緒に解決していくという点で、面白みを感じています。

 

 

大学在学中から家業の経営に携わることは意識されていたのでしょうか。

 

富山:

いえ、そこまで明確には意識していなかったですし、大学時代は「絶対に家業を継ぐ」という決断には至らなかったですね。ただ、自分の将来のキャリアを見据えた中で、家業でもそれ以外でも、会社の「経営」につながる道を選びたいと考えていました。1年間アメリカに留学する機会があって、ある程度英語に自信がついていたこともあり、世界中にグループ会社を持っている商社なら経営に携われる機会があるのではないかと。大学卒業後に入社した三井物産では経理を皮切りに、事業投資や海外営業などの業務を通じて、経営を担える人材になりたいと意識してキャリアを積んできました。商社での仕事は充実していましたが、これまでの経験と知識を生かした仕事で誰かに喜んでもらうとしたら…と、思い浮かんだのはやっぱり地元である新潟の人たちで、それがUターンの決め手にもなりました。

 

 

中小企業の経営に関する悩みというと、どういったものが多いのでしょうか。

 

富山:
中小企業においては、各企業の悩みに共通項がある場合が多いですね。規模が小さい分、経営資源であるヒト・モノ・カネの総量が限られており、それらの振り分け方に課題があるケースが多いです。それは私の家業においても同様でした。それらの課題の根源を、管理会計や業務フロー分析によって特定することで、課題解決に導くことが可能です。例えば、一生懸命販売しているのに利益が上がらないのは、効率の悪い、すなわち利益率の低い商品の販促ばかりに熱心だったことに理由があったりします。また、忙しくて本来の営業活動に時間が割けないという言い訳を聞くことがありますが、それは社内の業務フローが煩雑だったり、重複や無駄があったりすることに起因することもあります。しっかりと分析をした上で、ヒト・モノ・カネの最適な配置をすることによって上手く回すことができるようになります。また、一つの企業で解決できた事例があると、それを別の企業にも応用できることもあります。

海外経験で体感した、本音を交わすコミュニケーションの重要性

現在は地域に密着した活動が中心ですが、商社時代の経験が今に生かされていることはありますか。

 

富山:
経理や営業の交渉事など経営につながる部分ももちろんですが、コミュニケーションに関しては、特に前職の経験がいきていると感じます。三井物産、財務省出向時も海外での仕事が多かったのですが、海外では自分の意見を持ってそれを自分の言葉で述べることが当たり前です。きちんと対話して、互いの意見をぶつけ合った上で議論し、合意していかないと仕事が成り立たないんです。一方で、日本人同士のコミュニケーションはハイコンテクストな面があり、どうしても「言わなくても通じるよね」と、空気を読んだり、本音と建前を察しなければという部分もあります。それによって、なあなあで物事が進んでしまうこともあると思います。特に経営コンサルティング業務においては、クライアント企業の経営を安定させること、業績を良くすることが求められます。そのため、クライアントとは、膝を突き合わせた議論が欠かせません。相手の意見や想いを引き出すためには、私自身の考えをきちんと伝えないと、相手も応えてくれないという認識でいます。海外との仕事、すなわち文化や人種、言語も違うダイバーシティのある環境での経験が、今の仕事に大いに役立っています。

昔の写真を眺める面白さ、デジタルで歴史を残していく意義

家業や経営コンサルティングのお仕事とは別に、写真に関する活動にも励まれています。
(一社)新潟今昔写真を立ち上げた経緯を教えてください。

 

富山:

「新潟今昔写真」は、自分たちが好きなことを突き詰めていったら、仕事につながったという部分があります。5学年上の高校の先輩と一緒に、2016年に始めました。鎌倉でやっていたまちの昔と今を写真で比べるプロジェクトを知ったことがきっかけで、ぜひ新潟でもやろうよと。

もっと遡ると、昔の写真が好きになった原体験として、私自身、小学生の頃に古い写真をよく眺めていたんです。母が昭和3040年代を写した『新潟わが青春の街角』という写真集を買ってきたのですが、それを見ながら「ここに写っている人たちはどういう想いでこの時代を生きていたのかな」と想像することが好きでしたね。例えば、昭和341月の古町を撮影した写真なら「この頃は母も小学生くらいかな。この日この近くを歩いていたはず」「祖父母はこの辺で働いていたんだな」と、当時の風景に思いを巡らせていました。古い写真を使って今の風景と比較するという趣旨を聞いた時、幼少期に古い写真に親しんでいたことを思い出して「これだ!」と思いましたね。

 

周りからの反響はありますか。

 

富山:

自分たちの「好き」からスタートした取り組みですが、始めてみると意外にも皆さんが興味を持ってくれたのはうれしかったですね。2020年には新潟駅万代口駅舎の惜別プロモーションの監修をさせていただいたり、2021年は「古町どんどん」や「にいがた本町燈籠まつり」などでのパネル展示に写真の貸出しを行ったりしましたが、年配の方には懐かしいと喜んでいただいています。まち歩きをしながら今と昔を写真で振り返るというイベントを開催した時には高校生や大学生が参加してくれましたし、「歴史に触れることができて面白かった」という感想をいただき、昔の写真は若い方たちにも伝わるものがあると感じました。最近は企業からのオーダーも多く、写真貸し出しや、今昔比較のイベント企画・運営など、私たちが予想していなかった需要が生まれつつあります。クラウドファンディングでは100名を超える方から資金提供いただきき、昔と今の写真を見比べるスマホアプリの開発に至りましたし、最近は写真をベースに3次元コンピュータグラフィクス(3D CG)で古い建物を再現する仕事にもつながりました。新潟はどちらかというと、古い建物を建て替え、更新しながら成長してきたまちです。それはそれで経済活動として正しいと思いますが、歴史的建造物の解体には心を痛めることもあります。建物やまちの風景と、それにまつわる思い出を残していくために、写真や3D CGなどのデジタルデータを活用することが最適解なのではないかと考えています。

今まで以上に町や人を巻き込んだお祭りに

明和義人祭では、涌井藤四郎役を務められましたが、いかがでしたか。

 

富山:
白山公園や上古町周辺に明和義人にまつわる碑があることは以前から知っていましたが、明和義人祭というお祭りがあることを知ったのは、実は新潟にUターンをしてからなんです。実際にお祭りの様子を見てみると、子どもたちが道にチョークで絵を描いていたり、場所ごとにイベントが開催されていたりと、にぎわっている印象でした。大人も子どもも楽しそうに過ごしていましたね。お祭りを通じてまちの歴史に触れるという意味では、共感する部分がたくさんありました。

 

 

(一社)新潟今昔写真での活動に通じる部分があると感じますか。

 

富山:
そうですね。例えば、涌井藤四郎や岩船屋佐次兵衛に関しては、当時の姿を想定した格好で行列を行いますが、昔の人やまちの様子を再現するという意味では、新潟今昔写真の「歴史を掘り起こし発信する」というコンセプトと根っこの部分が同じだと感じました。この点が今回、役を引き受けさせていただいた最大の理由です。

 

 

明和義人祭に今後期待することや、メッセージをお願いします。

 

富山:
お祭りの意義と趣旨からすると、もっともっと規模を広めていけるのではないかと思いました。限られた地域だけのお祭りとしてではなく、こういう歴史があるということを市内外の方に知ってもらう仕組みを作っていくのもいいかもしれません。地域に人が集まるだけでなく、歴史を伝えていくという意味でもいろんな可能性を持っているお祭りだと思うので、今後の発展を楽しみにしています。

「明和義人伝~モダンタイムズ~ep」とは

明和義人祭にて主人公を演じていただいた方に感想やご自身についてのエピソード(ep)をお伺いし具体的な活動内容を紹介します。明和義人を知るきっかけとなり新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。