「明和義人伝~モダンタイムズ~」第7回 : 逸見覚さん

プロフィール

逸見覚さん

(株)けんと放送・()スナップ新潟 代表取締役社長。新潟県佐渡市出身。東京理科大学卒業後、()けんと放送でラジオパーソナリティとして活躍。2019()スナップ新潟を立ち上げ、地元で開業を目指す人々の支援や、起業家・支援パートナー企業などが交流できるオンラインコミュニティを提供。これまでに学生起業家を含む多くの起業家を輩出している。現在は、新潟ベンチャー協会理事も務める。

20代からけんと放送でラジオパーソナリティを務めてきた逸見 覚さん。
30代で取締役に、40代で社長に就任し、経営や関連事業まで幅広く関わってきました。
2019年には自らも、起業家を育成する会社を起業。
学生をはじめ、野心あふれる若き起業家の卵たちを力強く応援しています。

レンタルオフィス事業から起業スタートアップ拠点へ

ご自身が起業される前、けんと放送でのお仕事について教えてください。

 

逸見:
大学を卒業して、ラジオパーソナリティとして(株)けんと放送に入社しました。3年半ラジオの仕事をやらせてもらって、一度退社し、26歳でラジオと英語を勉強するためにアメリカに渡りました。帰国後、再びけんと放送に入り、31歳で取締役に。経営に携わるようになってしばらく経った頃、放送局が入っているプラーカ3ビルにあったレンタルオフィスの会社が撤退すると聞き、それならうちで引き継ごうということになって、改装して「Hub Station KENTO」として新たにオープンしました。今年で8年目、お客さまは徐々に増えて、現在90社前後の企業さまにご利用いただいています。

 

起業家をバックアップする会社「スナップ新潟」を立ち上げたきっかけは?

 

逸見:
もともとは、花角知事や新潟経済同友会さんが重要施策の一つとして「起業・創業」を掲げ、民間スタートアップ拠点をいくつか設置するという動きがあったので、それに手を挙げたというわけです。当社のレンタルオフィスにも、すでにベンチャーとか若い起業家が契約し始めていましたし、本当はこれをスタートアップ拠点として申請してもよかったのですが、「起業したい」と相談に来た人に、対応する僕が起業未経験ではいけないと思い、「スナップ新潟」を起業しました。これから起業したいという人と同じ目線に立って、初めて共感できることがあるのではないかと感じたからです。

意欲ある起業家を支援パートナー企業がサポート

「スナップ新潟」を通して起業を目指す人たちに、どんな思いを持っていますか。

 

逸見:
当社は起業を目指す人の相談に乗ったり、サービスを提供したりする会社ですが、利用料は発生しません。起業家予備軍を応援する「支援パートナー」という立場の方々がいらっしゃって、彼らに期待してお金を出してくださっているのです。支援パートナー企業は現在20社。その恩義に報いるためにも、我々は起業家をたくさん輩出したいと願っています。当社ではこれまで若い世代が続々と起業しており、そのうち3社は、今は支援する側になっています。支援を受けていた側だった起業家が、会社を起こして支援する側に回る。この仕組みを広げていけたらと思っています。

 

登録者が活用する「スナップサロン」の役割や効果を教えてください。

 

逸見:
「スナップサロン」とは、Slack(ビジネスチャットツール)を使ったオリジナルのオンラインコミュニティです。自己紹介や先輩への相談、活動報告など、自分のアピールになることを書き込むと、見ている人たちがスタンプを押してくれます。支援パートナーさんはコインのスタンプを押せるようになっていて、その人のアプリにコインが送られる仕組みになっています。1コイン=100円で、起業に必要な物やサービスに交換することができます。学生の中にはスナップコインを航空券に換えて商談に行った人も。頑張る人ほど、活動資金が増えるのです。起業したいという熱をいかに冷めさせないか。「コインをここまで貯めた」という達成感は、起業に対するモチベーションの維持にも役立っていると思います。

柔軟な発想で勝負する学生起業家たちを輩出

学生のうちに起業する方も多いそうですが?

 

逸見:
現在の登録者数は186名、うち143名は学生。過去に学生起業家を9人輩出しています(2022年4月現在)。学生起業家は、「起業したい」というだけで具体的な内容まで決まっていない人や、学生サークルの延長のような感覚の人も少なくありません。あまりにも現実的でないアイデアは、僕ら大人がきっぱり諦めさせますね。逆に起業に至るケースで多いのは、最初に持ってくるアイデアとは違うジャンルのビジネスに挑む人でしょうか。自分のやりたいことの軸は持ちつつ、方向転換できる人。最初の考えとは変わっても、パッと方針を変えられるのも学生ならではの柔軟性です。

 

起業した学生たちの、印象的なエピソードはありますか?

 

逸見:
例えばサウナの会社を立ち上げた大学生。最初は、全く別の分野の会社をやりたいと言っていましたが、なかなか難しく、煮詰まっていました。ある時「じゃあちょっとサウナでも行こう、何かアイデアが出てくるかも」といって彼をサウナに連れていったら、「サウナって素晴らしい、これを仕事にしたい」と言い出しました。面白い話があって、単に「サウナストーブを作りたい」とメーカーに相談に行っても、いち大学生の持ち込む話には本気になってくれない。でも株式会社を登記し、代表取締役の名刺を持っていったら、すんなり話を聞いてくれたそうなのです。そういう意味でも、学生のうちに法人化する意味は非常に大きいと思います。他には、スポーツビジネスの構想を持っていた大学生が、クラフトビールの会社を立ち上げた人に当社でたまたま出会ったことから、ビールを作る際に出る麦芽粕を活用したフード作りに方向転換したり。自分なりのアイデアやひらめきを発見したところから、起業への道がひらけているような気がします。

夢の実現に挑む若者がたくさん育つ街に

若者が起業することにどんな意義、可能性があると思いますか?

 

逸見:
可能性は大いにあります。逆に言えば、可能性しかないと思います。特に学生に関して言うと、昔は株式会社を作るのに1千万ぐらいかかりましたし、学生のうちに起業するという選択肢はほとんどなかったはず。しかし今はハードルが下がり、アルバイトで貯めたお金と県からの補助金で自分の会社を作ることができる。それだけでも本当にすごいことで、大きな自信になると思うし、万一失敗したとしても、彼らの経験やビジネス力はどこへ行っても通用すると思います。もしその後どこかに就職するとしても、どこの会社からも引っ張りだこでしょう。そういう人材が出てくることに価値があると思うのです。

 

 

大切にしている地域貢献への思いを聞かせてください。

 

逸見:
新潟が、自分の力でチャレンジする若者であふれる街になってほしいですね。新潟の学生ってすごい、大学行きながら会社作ってバリバリチャレンジしてるぞ!と。東京など大都会は人が多すぎるし、他の地方の起業支援団体の話を聞くと、新潟は割と起業しやすい土地柄だと思います。新潟の起業家や経営者たちは、それぞれ活動内容は違っても、ぶつかり合うこともなく、なぜかまとまりがあると言われています。未来の起業家たちが育つ土壌も整っているのではないでしょうか。

 

明和義人祭に対すること、メッセージをお願いします。

 

逸見:
子どもたちが衣装を着て古町通を練り歩いたり、お菓子を配ったり、すごくいいお祭りだなと思っていました。新潟で育った子どもたちが、大学生とは言わず、高校生、中学生からでも、会社に勤めるだけでなく、自分で会社を作る方法もあるということを知ってほしい。明和義人のように何かに挑戦する気持ちを持ってくれたら嬉しいですね。

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。