「明和義人伝~モダンタイムズ~」第3回 : 迫一成さん

プロフィール

迫 一成さん

ヒッコリースリートラベラーズ 代表。福岡県出身。新潟大学人文学部卒業後、2001年「ヒッコリースリートラベラーズ」を結成。イラスト、グラフィックデザイン、グッズ開発など制作活動を開始。2003年から古町通に店舗を移し、エリア一帯を「上古町(カミフル)」としてブランディングしたことをきっかけに地域商店街の活性化にも参画。上古町を軸にした独自のイベントや企画展を開催するほか、地元産業とコラボした商品開発、街を楽しむためのワークショップ、講演など、活躍の場を広げている。

楽しいデザインやグッズを展開する雑貨のお店「ヒッコリースリートラベラーズ」から、新しくお目見えした複合施設「サン」まで、自由な発想で上古町をカラフルに塗り替えてきた迫 一成さん。
人の心を動かすまちづくり、その原動力はどこから来るのでしょうか。

自分たちの拠点となった場所、上古町

「ヒッコリースリートラベラーズ」を立ち上げた頃のことを教えてください。

 

迫:
僕は大学で社会学を専攻していたのですが、絵本や絵を描いたり、デザインで表現することを将来の仕事にしたいと考えていました。卒業後、たまたま知り合った仲間たちと3人でクリエイト集団「ヒッコリースリートラベラーズ(以下「ヒッコリー」)」と名乗って活動し始めました。200110月から西堀ローサのチャレンジショップで1年半、そのあと古町通に店を開いて、自分たちが作った商品を少しずつ販売していました。当時、雑誌や新聞などのメディアも「若者たちがなにやら面白いことをやっている」と僕たちを取り上げてくれて、結婚式用ギフトやTシャツのデザインといった依頼が徐々に増えてきたり、地元のお店と一緒に作ったコラボ商品が注目され始めたりして、何の根拠もなかったけれども、この調子でもっと面白いことができるんじゃないかと思い込んでいました。

 

商店街との関わりも、その頃から深まっていったのですか。

 

迫:
今ヒッコリーがある場所は、以前「渡道酒店(ワタミチ)」という酒屋さんで、その風格のある建物が壊されると聞いて、もったいないので僕らが受け継ぐことにしました。古いものは新しく作れない、歴史は簡単には作れないということを感じていたからです。ワタミチを開放し、ダンス、演劇、教室、飲み会まで、いろんなことをやったおかげで、現在の仕事にもつながるたくさんの人との出会いがありました。商店街の集まりにもその頃から積極的に参加して、「もっとこうした方がいいんじゃないか?」という問題意識も自分たちなりに生まれてきて、勝手にロゴマークやマップを作ったり、上古町を「カミフル」と呼んでみたり、今で言うブランディングのようなことをやり始めました。商店街をまとめる皆さんも温かい目で応援してくださって、その上いろんなことを教えてくださった。自分たちの仕事も、みんなで取り組むまちづくりも、失敗しながら時間をかけてやることにすごく意味があるということを学びました。

街の魅力と情報を広い視野で発信

迫さんが作った「カミフル団」とはどんなチームですか。

 

迫:
上古町商店街振興組合の理事をずっとやっていて、今は理事長なのですが、会議をやっても細かい決め事ばかりで、大きなビジョンが見えないまま終わることが多いなと感じていました。もちろんアーケードの維持管理とか、予算の使いみちなど、組合でやるべきことも大事なことではあるのですが、それだけではつまらない。そこで、街の外に向けていろんな情報を発信できるチームを作りたくなって、有志で「カミフル団」を立ち上げました。

 

「カミフル団」では、これまでどんな活動をしてきましたか。

 

迫:
講師を呼んでお話を聞いたり、まちづくりの勉強会をしたり、ウェブサイトを新しく作ったりしました。ウェブサイトにはお祭りやイベントの様子、また街の表情が伝わるような楽しい写真をたくさん掲載し、一年を通じてさまざまな取り組みが行われていることを紹介しています。またカミフルのマップを作る「マップコンテスト」をひらいたところ、応募は少ないながらも非常に魅力的な作品が寄せられ、素敵なマップを作ることができました。これらの活動には費用もほとんどかからないし、リスクも全くありません。「面白そうだな」「私もこんなことやってみたい」という新たな参加者やアイデアも大歓迎です。フットワーク軽く、枠組みにとらわれずに挑戦できるのが「カミフル団」の強みです。

上古町の「今」を凝縮した空間が誕生

2021年12月にオープンした「サン」は、どんな経緯でスタートしたのですか。

 

迫:
「サン」ができた理由はいくつもあります。一つは、ヒッコリーを20年間やってきて、もう一度街のことをよく考えたいという思いが湧いてきたこと。上古町にスキルアップさせてもらって、今も楽しく過ごせている、そんな、お世話になった街への感謝の気持ちがまずありました。それから、ここは以前「フーデリック」という飲食店が入っていたのですが、親しみのあるこの場所に変なお店が入るのが嫌で(笑)。だったらここを、自分たちが手がけている「浮き星(新潟の伝統菓子)」という商品のミュージアムにして、カフェでも楽しんでもらえたらと考えました。さらに僕らとつながりのあるお花屋さんやレストランが移転先を探していたので、彼らも誘ってシェアしようということに。そして「新潟で何かわくわくする場を作りたい」という夢のある構想をひそかに持っていた金澤さん(現・サン副館長)との出会いもあった。そういういろんな要素が重なって、やるならこの場所で、今なのだろうなと思いました。

 

「サン」は単なる店舗ではなく、自由に活用できる複合施設のようですね。

 

迫:
2階にはヒッコリーの事務所や作業場もありますし、ミーティングスペースはイベントやワークショップをやりたい人に自由に使ってもらえます。近いうちに庭も作ろうと思っているので、屋外で何かすることも可能です。ここ数年、僕は地域の小中学校に呼ばれて、まちづくりについて授業をすることがあったのですが、街の中に子どもたちの居場所が少ないということもわかってきました。「気軽に立ち寄れる場所がほしい」とか「ネット環境が整っている所でゲームしたい」という子どもたちの声を取り入れ、ジュースを1杯頼んでもらったらここで自由にくつろいでいいということにしています。大事な成長期の子どもたちに、街への愛着を持ってもらえる、そして、頑張っている大人たちの存在を知ってもらえる場所になればという願いもあります。

 

「サン」を通して、これからの上古町にどんなことを期待していますか。

 

迫:
ヒッコリーやワタミチを始めた頃に思い描いていたのは、県内外からお客さんが来る、ガイドブックに載る、メディアに載る、褒められる、みんなが笑顔で街を歩いている… そんな明るい街の姿でした。そのためにはマップがあった方がいいよねとか、ウエルカムな雰囲気を作りたいとか、自分たちに「できそうなこと」をやってきただけで、決して大きなことをしてきたわけではないのです。「日常の中にこそ面白いことがある」が僕らのコンセプト。新しく生まれた「サン」は、可能性をたくさん秘めた場所です。ここからまた上古町の日常を楽しんでもらえたらうれしいです。

自分を育ててくれた街に感謝の思いを

個人として大切にしている、地域貢献への思いは?

 

迫:
この街が好きで出店している以上は、街を支えているものへの感謝の気持ちを忘れてはいけないということは、日頃から思っています。ヒッコリーは街に育ててもらっている団体なので、恩返しというわけではないけれども、もっと「上古町ってわくわくするよね」と思ってもらえるようなものを、デザインやいろんな活動を通して表現していけたらいいなと思います。

 

明和義人祭に期待すること、メッセージをお願いします。

 

迫:
明和義人と呼ばれる人たちは、何かを継承するというより問題意識を持って立ち向かってきた人たち。そんなスピリットにあやかって明和義人祭を続けていけば、勇気を持って行動し、未来を切り開こうとする人が現れるかもしれません。

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。