「明和義人伝~モダンタイムズ~」第18回 : 松山由美子さん

プロフィール

松山由美子さん
はっぴぃmamaはうす代表・認定NPO法人はっぴぃmama応援団代表理事

新潟県佐渡市出身。看護師として経験を積み、29歳で第一子出産を機に退職。以来、専業主婦として3人の子どもの育児に励み、転勤生活から新潟に戻り、2009年「はっぴぃmamaはうす」を開設。20156月「NPO法人はっぴぃmama応援団」を設立後、現在の新潟市中央区神道寺に移転し、看護・医療・保健の専門性と自身の子育て経験を生かし、親子の居場所づくりと産後ケア事業、訪問看護ステーション等幅広い支援を展開している。

少子化や労働人口の減少、核家族化が進む昨今。それによって深刻な問題となっているのが、産前産後の母親の孤立化と支援体制です。その中で、身近に頼れる人がいない中での初めて育児、悩みを持ちながらそれを話す場がないことへの葛藤や不安など、どんな母親にでも起こりうるあらゆる問題や課題に向き合いたいと立ち上げられたのが、新潟市にある「はっぴぃmamaはうす」です。「はっぴぃmamaはうす」代表を務める松山由美子は保健師として働いた経験を持ち、自身の子育て経験を通じて、子育て世代が必要とすることを考え抜き、産後の母親の居場所づくりに奔走。2009年に民間の子育て支援スペース「はっぴぃmamaはうす」を開設しました。ここでは、助産師・保健師・看護師・保育士・公認心理師といった専門職が中心となり、「妊娠期からの切れ目ない支援」を展開しています。松山さんは産後ケア事業や子育て支援に尽力し、子育てへの共通の悩みを持つママの大きな支えとなっています。今回は、松山さんに「はっぴぃmamaはうす」「はっぴぃmama応援団」の立ち上げから、子育て支援への思いを語っていただきました。

活動の主軸となるのは「ママの笑顔」

松山さんが代表をされているのは「はっぴぃmamaはうす」と「NPO法人はっぴぃmama応援団」とあります。
両者はそれぞれどういった場所、役割になりますか?

 

松山:

「はっぴぃmamaはうす」は、主に産後ケアや育児相談などの場として機能しています。赤ちゃんを連れたママたちが気軽に立ち寄れる居場所づくりを目指して、2009年頃に活動を始めました。私自身も子育てをする中で、ママが集まって相談し合える場所の必要性を感じていたことがきっかけでした。一方「NPO法人はっぴぃmama応援団」は、「はっぴぃmamaはうす」を開設と同時に任意団体として「はっぴぃmama応援団」を設立し、2015年にNPO法人化しました。ママたちのニーズに合わせてさまざまな活動を展開するためには、NPO法人化することでより幅広い支援を得られると考えたからです。「はっぴぃmama応援団」は、活動当初より助成金や皆様からの寄付金等で運営をしてきました。皆様が、私達の発足当初から一貫した「ママの笑顔がいちばん!」をご理解してくださっていたおかげで運営できたと思っています。

 

なるほど、双方の活動の軸は「ママの笑顔」ですね。
続いて「はっぴぃmamaはうす」の主な事業内容についてもお聞かせください。

 

松山:

はっぴぃmamaはうすでは大きく分けて3つの柱があります。まず1つ目は、産前産後のママを対象としたサロン事業。こちらに来ていただいて、ゆっくり赤ちゃんを遊ばせたり、ママ同士おしゃべりを楽しんだり、看護職がお悩み相談にも対応しています。子育ての不安や喜びを共有できつつ、ほっと一息つける場所を目指しています。2つ目は産前産後ケア事業です。産前~産後のママと赤ちゃんをサポートするために、日帰り型のデイケアとご自宅に訪問する訪問ケアを行っています。デイケアは、ママは赤ちゃんを見てもらいながら、個室で一人で休むことができます。訪問ケアは、ご自宅へ助産師・保健師・看護師等が訪問するもので、どちらも赤ちゃんのお世話に関することや、ママ自身の心身のケアまで、産前産後の生活全般の相談に対応しています。そして3つ目が、ママと赤ちゃんのための訪問看護ステーションの開設です。訪問看護ステーションは、医師の指示のもと、ご病気などを持ってご自宅で過ごされるママや赤ちゃんへの訪問を行います。ご自宅に訪問して、授乳や沐浴のお手伝い、赤ちゃんの病気の観察、ママの心身への看護を提供しています。訪問看護というと「私なんかが利用していいの?」という方も多いのですが、ママや赤ちゃんが診断がつく場合には、医師からの指示書によって訪問させていただきますので、そのような方はまずはお気軽にご相談いただきたいです。

 

そもそも、松山さんが「はっぴぃmamaはうす」を立ち上げたきっかけは。

 

松山:

もともと私は看護師として働いていたんですが、自身の出産を機に仕事は辞めたんです。専業主婦になって一人目の育児の最中に、夫の転勤で今でいうワンオペ育児が始まり、富山、石川、上越と慣れない土地で3人の子どもたちを育てていくのは本当に大変でした。上の子の世話をしながら、下の子のお世話もしなければならない。一人で抱え込んでいると、心も体も疲れ果ててしまいます。誰かに頼りたくても、知り合いのいない土地では相談する相手もいない。そんなストレスを抱えながら毎日を過ごす中で、ふと「子どものための居場所はあるのに、ママのための居場所がない。ママ同士が気兼ねなく集まれる場所があったらいいのに」と感じるようになったんです。転勤先のママ友たちと話をしていて、やはり同じような悩みを抱えている人が多いことに気づきました。みんな、子育ての不安を共有したり、息抜きできる場所を求めているんだなって。それなら、自分が看護師として学んだことを活かしながら、「ママたちの居場所」を作ろうと立ち上がりました。

子育て中の悩みから始まった“居場所”の必要性

「ママたちの居場所」づくりは、どのように進められたのですか。

 

松山:

最初はもう手探りの状態からのスタートです(笑)。富山にいた頃に出会ったエアロビクスインストラクターの先生の一言がきっかけでベビーマッサージの資格を取りました。その後、石川県で大ベテランの助産師さんと出会い助産院でベビーマッサージの教室を開かせていただけるようになったんです。その助産院ではお産を終えたママたちが集まって、お昼ご飯を食べながらおしゃべりする場所があったんです。私はそこに感銘を受けて、「私も同じような場所を作りたい」と思うようになりました。その後、夫の転勤で新潟に戻ってくることになったのですが、当時住んでいた新潟市西区で場所探しを始めました。場所探しにも苦労しましたが、なんとか西区で一軒家を借りることができたんです。場所が決まれば、あとは思い切ってやるだけ。「ママの笑顔のために」という思いを胸に、2009年にはっぴぃmamaはうすをオープンさせたんです。

 

一軒家からのスタートだったのですね!

 

松山:

そうなんです。まずはこういった場所があることを知ってもらうために、当時はまだSNSが普及し始めた頃でしたが、私も勉強しながらmixi(ミクシィ)などを活用しました。そこでの出会いから、オンライン上でもコミュニティが広がっていったおかげで、会いに来てくださる人がいたり、リアルな場での交流も深まっていきました。口コミでも少しずつ広がっていって、利用してくれたママたちが「こんな場所があるよ」と友達を連れてきてくれることが多くなっていったんです。オープンから1年が経った頃には中央区や江南区からも足を運んでくれるママが増えて、県外から引っ越してきたばかりのママや、双子ちゃんを育てているママなど、それぞれに事情を抱えたママたちが集まる場所になっていました。

 

NPO法人化されたのはいつ頃ですか。

 

松山:

西区で任意団体として活動しましたが、助成金を取るのにも限界がありました。しかし事業を継続していくには、やはりお金も必要ということで、法人化を決意したんです。仲間も少しずつ増えてきていましたし、NPOになることで公的な支援も得やすくなるかなと。2015年にNPO法人はっぴぃmama応援団を設立しましたが、それからはさまざまな助成金も取れるようになって事業の幅は広がりましたし、これまではボランティアが中心だったスタッフの働きにも少しずつ還元できるようになっていきました。

 

新潟市西区から新潟市中央区に移転された理由は。

 

松山:

活動は順調でしたが、西区のはずれの方にいたので、少し中央の方へ移転を考えるようになりました。ちょうどその頃、あるイベントで新潟市内にある「よいこの小児科さとう」の佐藤勇先生とご一緒させていただく機会があったんです。佐藤先生は小児科医としてだけでなく、子育て支援にも熱心に取り組んでいらっしゃることを伺っていたので、イベントの休憩時間を利用して「はっぴぃmamaはうす」の活動についてお話ししたところ、佐藤先生も興味を持ってくださいました。佐藤先生は本当に子育て支援に理解のある方で、当時から「もっと子育てを楽しいと思えるようなサポートが必要」とよくおっしゃっていましたね。私も全く同じ想いを抱いていました。そして、小児科の休診時間を利用して育児相談会を開催させていただくようになり、先生がそこにママたちを紹介してくださるようになったんです。

 

現在の「はっぴぃmamaはうす」の場所へ移転したのも、佐藤先生との出会いがきっかけなのでしょうか。

 

松山:

そうです。佐藤先生と出会ってしばらく経った頃、新潟県の少子化対策事業の公募があることを知りました。西区での活動実績もあるし、佐藤先生と一緒ならもっと広げられるんじゃないかと思ったんです。二人三脚で企画書を作成し、無事に採択されました。事業を進めていく中で、西区よりもアクセスのいい場所で活動した方が、より多くの親子に来ていただけるんじゃないかという話になり、佐藤先生のご尽力もあり「よいこの小児科さとう」の近くに移転することが決まったんです。今の場所は、もともと長屋だったところをリフォームしていただいたんですが、なかなか思うように工事が進まず、佐藤先生には資金面で、当初の予定よりかなりご負担いただきました。おかげさまで、2016年春に新しい「はっぴぃmamaはうす」を現在の場所にオープンすることができたんです。

社会の変化を見据えた、切れ目のない母と子の支援を

最近の子育て事情についてもお聞かせください。
松山さんから見て、ここ数年で子育てにはどういった変化が感じられますか?

 

松山:

やはりコロナ禍による影響は大きかったように感じます。外出自粛が求められる中で、子育て中のお母さんたちの孤立感が以前にも増して強まったのではないでしょうか。オンラインでの交流も広がりましたが、対面での触れ合いの大切さが再認識された一方で、そのハードルが上がってしまった面もあるかもしれません。やはり、妊娠期から子育ての時期まで、切れ目なくママたちをサポートしていく大切さを実感した時期でもありました。

 

社会の変化が子育てにもかなり影響しているのですね。

 

松山:

核家族化や晩婚化が進んでいることで、初産の平均年齢が上がってきていることも挙げられます。高齢出産によるリスクもあり、ママ自身の心身の健康面でのサポートがより一層必要になってきています。妊娠・出産への強い思いがある一方で、子育ての困難さを感じるママも少なくありません。産後ケアを求めるニーズの高まりを受けて、はっぴぃmamaはうすでも助成金を活用してデイケアを拡充していきました。それから、発達の特性があるお子さんへの支援も課題だと最近は感じています。ママたちからの相談の中には、「うちの子は大丈夫かしら」という不安の声が以前より多く聞かれるようになりました。専門的なアドバイスができるよう、スタッフ一同、学びを深めているところです。

 

良い傾向だと感じられることもありますか?

 

松山:

もちろんあります!例えば、パパの育児参加が以前より進んできたことです。育休を取得するパパも増えてきましたし、イクメンという言葉も定着してきました。企業の子育て支援の取り組みも、少しずつ広がってきているように感じますね。育児休暇の充実や、時短勤務の推進など、仕事と子育ての両立を後押しする制度が整備されつつあります。社会全体で子育て家庭を応援していこうという機運の高まりを感じます。ママだけが頑張るのではなく、パパも一緒に子育てに向き合う。そんな意識の変化は、家族全体の幸せにつながると信じています。ただその反面で、パパが育児負担を感じていることも多く、メンタルの不調を感じられるパパも少なくありません。今、できていませんが、パパへの支援の手が必要だと感じてもいます。社会的な変化とともに、子育てを取り巻く環境も大きく変わってきていると感じますが、悩みを抱えながらも前を向いて子育てに臨むママたちの姿勢に、私の方が励まされています。時にはしんどさを吐露しながらも、わが子への愛情を口にするママたち。そのたくましさと優しさに、私自身が勇気をもらっているんです。

専門性を兼ね備えた、多角的な子育て支援を目指して

「はっぴぃmamaはうす」という一つの場として、松山さん個人として考えている取り組みやビジョンについて教えてください。

 

松山:

より力を入れていきたいと考えているのは、産後ケアの充実と発達に特性のあるお子さんへのサポートなどでしょうか。お母さんとお子さんが抱える問題は十人十色だからこそ、よりニーズに合わせた形でのサービスの提供を目指していきます。その家庭に寄り添ったオーダーメイドの支援を心がけていきたいものです。産後ケアに関しては、産後すぐにゆっくり休める場所が必要だという信念は、設立当初からずっと持ち続けています。自分自身の経験からも強く感じていたことでもありますし、そこは譲れないポイントですね。また、何か困ったったときにすぐにちゃんと相談できて、解決の糸口が見つかるような場所にしたいという想いがあります。きちんとケアとサポートができる専門性を備えた場所であり、困ったときの駆け込み寺でありたいですね。

 

ありがとうございました。最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。

 

松山:

人間関係が希薄といわれ始め、地域の行事などが徐々に中止されてきた時に、コロナ禍で一気にお祭りなどの人が繋がる場が減りました。子ども連れの家族がお祭りに出かけ、大人同士が交流を楽しむ姿や一生懸命何かに打ち込む姿に触れ、いつの間にか自分もお祭りを開く側になっていたり、子ども同士で友達や好きな人とお祭りに出かけたり、ワクワクする瞬間がお祭りにはあります。子どもが自然と地域に溶け込み、地域全体で子どもたちを育む姿がお祭りにはあるように思います。そして、それぞれのお祭りには意味があり、それが地域に根ざしているのだと思います。明和義人祭を初めて知りましたが、力ではなく対話で問題解決をした偉人たちの顕彰と慰霊の意味があるということに感銘を受けました。「対話」で心地よい時間を作り出すことは、どんな場面でも、喜びを感じられる大切な瞬間です。明和義人の精神は、現代のような人が傷つくことが多く感じられる時だからこそ求められているのだと思います。これからも、末永く受け継がれ広がって行ってほしいと願うばかりです。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。