「明和義人伝~モダンタイムズ ep~」第2回 : 宇尾野隆さん

プロフィール

宇尾野隆さん
株式会社ウオショク 代表取締役社長

1958年生まれ。新潟市中央区出身。大学卒業後、大手食品会社での勤務を経て、家業である株式会社ウオショクに入社。食肉卸売業のバイヤーなどを経て現職。2018年からは新潟ニュービジネス協議会会長を務め、若手起業家の育成や海外でのビジネス活動など事業創造の支援を行う。2022年の「明和義人祭」では、岩船屋佐次兵衛役を務めた。

新潟の食肉業界の中でもいち早く自社ブランド開発に取り組む、食肉卸、食肉製造を行う「株式会社ウオショク」。
代表取締役社長を務める宇尾野隆さんはブランド肉の海外進出にも貢献し自社開発の「雪室熟成和牛」を通じて、新潟の魅力を世界に向けて発信しています。
2022年の明和義人祭で「岩船屋佐次兵衛」役を務めた宇尾野さんにこれまでの活躍と、これからの展望を伺いました。

食肉業界の新たな道を切り拓いた、独自のブランディング

宇尾野さんの現在のお仕事について教えてください。

 

宇尾野:
昭和40年に父である先代が立ち上げた会社を受け継ぎ、30年近くになります。会社全体の業務としては自社ブランドの食肉製造業と卸売業を兼ねていますが、私の今の主な仕事は、海外に向けた自社ブランド肉のPR、販売になりますね。シンガポール、タイ、ベトナム、香港、マカオ、カナダ、アメリカの7カ国の問屋やホテル、レストランの皆さんと取り引きをさせてもらっています。取り引きが始まると、2〜3ヶ月に1度現地に伺っていましたが、近年はコロナ禍でそれができないのがネックでした。最近は海外にも渡航できるようになってきましたので、10月もニューヨークとシカゴに行ってきたところです。
海外での商談が多く、言葉やコミュニケーションなど大変では?と聞かれることもありますが、社長である私が行く限りは責任もなく、気楽にできるのがいいところかもしれません(笑)。30代の頃、輸入牛は大手商社と組まなければ取り組めないと思って、東京駅から電話をかけて飛び込み営業をしたこともありました。ダメもとでも挑戦してみようと思う気持ちは、今も変わりませんね。
先代の父とは一緒に仕事をしていた時期もあり、仕事への情熱や熱心さ、真面目にやることの大切さを間近で学びました。海外進出も父がつないで来た道を私が新しくつなぐというイメージでしょうか。

 

自社ブランド立ち上げのきっかけを教えてください。

 

宇尾野:
その昔、当社は農家から豚を買って、ブロック肉にして販売するのが主でした。新潟県産の豚でその土地に根付いたものではあるのですが、肉質や味、飼料、環境においても、これといった特徴がなかったんです。一方で輸入牛も取り扱っていましたから、30代の頃はバイヤーとして牛肉の産地であるアメリカやオーストラリアにも赴きました。輸入牛は県内でもいち早く取り扱っていましたが、いつしか他の問屋さんも扱うようになってしまったんです。豚肉には特徴がないし、輸入牛は競合が多いしで、ビジネスをやる上で”武器”になるものがなかった。会社の特徴を出していけないと、お客さんに売りづらいですし、これでは生き残っていけないと思いました。
当時は「越後もち豚」がブランドとして確立し始めた頃でもありました。他県のブランド肉の事例を参考にしながら、自社のブランドを立ち上げていくことに決めたんです。そうして生まれたブランド肉の一つが「雪室熟成和牛®」でした。

“新潟らしさ”を追求した「雪室熟成和牛®」の誕生

「雪室熟成和牛®」が誕生した経緯は。

 

宇尾野:
食肉業界の大きな動きとして、10年ほど前に、熟成肉が流行したことがありました。実は20〜30年前から、アメリカにドライエイジングという肉を乾燥させて熟成させる技術があることは知っていたのですが高関税であったり、まだ取り入れるには早く、難しい時代だったんです。何かないかと模索していた時に、たまたま出合ったのが「雪室」でした。ある展示会で、鈴木コーヒーさんが「雪室熟成珈琲」なるものを打ち出していて、雪室という言葉に惹かれたんですね。雪室は簡単にいうと、雪を利用した天然の冷蔵庫。一般に出回っている肉も、冷蔵庫に長期間入れておくと熟成するので、じゃあ雪室を利用しても熟成できるだろうと。当時雪だるま財団にいらっしゃった伊藤さんに、魚沼地域の雪室での肉の熟成を依頼してみたのが始まりでした。

 

試作での出来はいかがでしたか。

 

宇尾野:
十分やわらかくなっていましたし、肉の甘味も出て、味も濃くなっているのがよく分かりました。味の面では問題なかったのですが、雪室という特徴がある商品なので、どれだけ売れるかという自信は正直そこまでありませんでした(笑)。ですが、私が長年こだわってきた“特徴があるもの”には、かなり近付くことができたと思いました。それに、雪室=雪国である新潟を象徴するものです。雪室で熟成させた肉ということで、新潟らしさも打ち出せると思いました。
海外でPRする際には、新潟には昔からこういう技術、文化があるという話を取っ掛かりに、雪室の構造から熟成方法と細かくプレゼンするんです。その際に試食会を開いて、実際に味わっていただくことにもこだわっています。

 

 

他にもさまざまな自社ブランドを手がけていらっしゃいます。

 

宇尾野:
他にも越後黄金豚や佐渡牛といった自社ブランドがあります。ブランド肉を手がけていく中で大切なのは、やはり農家の方々との日々のやりとりです。こういった肉を作りたいと伝え、餌を選んだり配合を微調整したり、牛舎や豚舎の環境にも気を配ったりして、その中で”特徴”となる部分を一緒に見つけていきます。全国には豚肉のブランドは500〜600とあるので、その中でブランを確立していくには農家さんとの連携がとても重要なんです。どの農家さんにも思いがありますからね。今後は県産肉の加工品などもさらに多く手がけていきたいと思っています。

新潟の経済に、新しいビジネスの風を

新潟ビュービジネス協議会会長として2022年は藍綬褒章を受賞されましたね。

 

宇尾野:
ありがとうございます。新潟ニュービジネス協議会が立ち上がったのは、今から25年前でした。当時、たまたま私が青年会議所の理事長を務めていたことがきっかけで加盟し、4年前から会長をさせていただいています。事業創造、起業家支援、国際ビジネス、地域未来創造など5つの委員会があり、現在は200社ほどが加盟しています。
これからは地方だけでなく、日本全体の経済が弱くなっていく可能性が高いといわれています。その中で新しいビジネスを立ち上げて、今までのビジネスよりもより付加価値の高いものを生み出していく必要がある。そのためには、会員に向けてだけでなく、これから社会に羽ばたいていく学生たちへのアプローチも非常に重要なんですよね。例えば、中学校や高校を回って学生の皆さんに仕事に対する心構えや起業の面白さを講演を通して伝えていますし、留学生には海外ビジネスプランのプレゼンテーションの場を設けています。そこで実際の起業家や会員から直接アドバイスをもらうことで、より具体的かつプランの質を高めることできる機会になるはずです。

 

会員同士の関わりはいかがでしょうか。

 

宇尾野:
互いに刺激を受け合い、発信の場になっていると感じますよ。新しい事業、新しい会社はもちろんですが、既存の会社内に新しい事業部門を作ったりという動きも最近多く見受けられます。企業同士のBtoBのマッチングなども行なっていますので、いろんな仕事の切り口、企業や個人の考えにふれて、新しいビジネスの構想を広げていけるのではないでしょうか。
先日、「NIIGATAベンチャーアワード2022」が開催されましたが、最終選考に残った8社を中心に、SDGsや新エネルギーをテーマにした企業がとても多かったですね。時代の流れを大きく変わってきているのを実感しました。新しい目線でどう儲けを出していくか、どのように新しい市場を作り、どうやって新潟を盛り上げていくか。新潟の経済の発展に少しでも貢献できる会になればと考えています。

年代を問わず、知恵を出し合うことが町の活性化に

明和義人祭では、岩船屋佐次兵衛役を務められました。

 

宇尾野:
佐次兵衛は呉服屋で古町芸妓の着物を仕立てていたと聞きました。そういう意味でも、町に根付いた根っからの商人だったのでしょうね。自分よりも年の離れた藤四郎を勇気づけたり、運命を一緒にしてまで応援できたというのは、佐次兵衛も同じ気持ちだからできたのだろうと思います。年代を超えて、一つのものに向かって、いい町にしていきたいという気持ちは、改めて大事なことだと気付かされました。新潟という町を盛り上げて、全国に誇れる場所にしていくには、若い方たちだけが頑張るのではなく、経験豊富な世代もやはり必要。私たち世代は応援しながらも、一緒に手を取り合いながら行動していかなければならないと感じました。

 

 

当日のお祭り、町の様子はいかがでしたか。

 

宇尾野:
当日は雨が降っていて、古町モールの中で行われたのですが、人出が多くて驚きましたね。お祭りの中で神楽舞や縁日、楽器の演奏と、さまざまなイベントも行われていて、それも面白かったです。佐次兵衛役をいただくまでは、講演会や小冊子などでお祭りの存在を何となく知っていた程度だったのですが、実際に参加してみると、町全体に活気がありました。

 

 

明和義人祭に対すること、メッセージをお願いします。

 

宇尾野:
新潟は商人の町で港町でもある場所柄なのか、皆さん頭がやわらかく、物事へ取り組み姿勢がとても柔軟という印象があります。それゆえ、みんなで集まって知恵や意見を出し合うことが得意かもしれませんね。個は個で頑張るのはもちろんですが、経済の発展や町の活性化には、連携や協力というキーワードがこれからますます重要になります。いろんな人、場所が連携しながら町を良くしていく大切さを、明和義人祭の中でも伝えていけるといいですね。

「明和義人伝~モダンタイムズ~ep」とは

明和義人祭にて主人公を演じていただいた方に感想やご自身についてのエピソード(ep)をお伺いし具体的な活動内容を紹介します。明和義人を知るきっかけとなり新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。