「明和義人伝~モダンタイムズ~」第6回 : 関本大輔さん

プロフィール

関本大輔さん

(株)アドハウスパブリック代表取締役。新潟のデザイン専門学校を卒業後上京、大手出版社でデザイナーとして勤務。父が設立した会社を継ぐため1997年に帰郷、常務として会社を支える。2013年から()アドハウスパブリックの代表取締役に就任。米国ギャラップ者認定ストレングスコーチのほか、越後雪室屋ブランドディレクター・理事、新潟県六次産業化プランナー、新潟市異業種交流研究会協同組合理事長。

広告デザインから事業開発コンサルティングまで企業のパートナーとして幅広い業務を手がける(株)アドハウスパブリック。
中でも研修プログラムを使った中小企業のブランディングサポートには高い定評があり、全国から依頼が後を絶ちません。
中小企業のブランディングの役割を、代表の関本大輔さんに伺いました。

デザインで役に立ち、もっと川上を目指すために

会社の沿革と、関本さんが社長になられた経緯を教えてください。

 

関本:
版下職人だった私の父が1971年に独立、その3年後にデザイン会社を作ったのが当社の始まりです。父が1997年に亡くなり、当時私は東京の出版社で働いていたのですが、戻ってきて、母とともに会社を引き継ぐことにしました。23歳の頃です。

 

その当時はどんな経営戦略を考えていましたか?

 

関本:
最初はまだ版下もやっていましたが、印刷業界も変わりつつあり、自分が東京で修行してきたDTPの技術を活かしてデザインをやっていこうと考えました。父の保険金でMacを揃え、ちゃんとしたデザインができるようにスタッフにも一から教えて。仕事は徐々に増えて、若手スタッフの作品をデザインコンペに出すなど少しずつ実績を積んでいったのですが、私が30歳手前になった頃、これからは我々のデザインを下請けにとどまらせず、もう少し川上を目指したいと思うようになりました。そこで、東京時代の先輩を頼って東京に営業所を置いたところ、ほどなくして大手エンタテイメント企業のアートディレクターの仕事を引き受けることに。こうして新潟・東京の2拠点体制が安定基盤となり、現在のスタイルが出来上がりました。

研修プログラムで企業の魅力を“見える化”

ブランディングに取り組み始めたのもその頃ですか?

 

関本:
そうです。デザインを本当の意味で役立たせるには、単に「いただいた仕事を受ける」というよりも、お客様に直接話を聞く必要があると思いました。もちろん、当社のデザインがちゃんと評価されてほしい、ちゃんとしたものを作って喜ばれたいという思いもベースにあっての話です。そのためにはデザイン力だけではなく、経営コンサルティング能力というか、パートナーとして話してもらえる人間にならないと駄目だと感じました。デザイナーはデザインのプロですが、お客様の商売については素人で、話が見えないこともあります。逆に、お客様自身の考えがはっきりしていない場合もある。そういった状況を全部受け止めて形を起こす役目でありたいと。「ブランディング」と呼ばれるようになる前から、そういう関わり方をしていただけなのです。

 

県内外に広く知られる「雪室ブランド」を立ち上げるきっかけは?

 

関本:
当社で実施した青空市場というマルシェイベントで、鈴木コーヒー様が「雪室*アイスコーヒー」を販売していました。それと同時期に、お肉のウオショク様から「今度、『雪室熟成肉』という商品を出すから手伝ってほしい」と話があったのです。それなら、雪室つながりで一緒にやれないか?と思い、他にも雪室関連の食品を出している企業を集め、オール新潟で「雪室ブランド」をやりましょうと提案しました。「越後雪室屋」の発足から12年、現在では26社が集まっています。そのブランド運営は当社がずっとやらせてもらっています。
*雪室=雪の力で食品を保存・熟成させる雪国ならではの貯蔵法

企業向けの研修プログラムを実施しているそうですが?

 

関本:
ワークショップで行う実践的なプログラムとして、アメリカで開発された「ストレングスファインダー」という診断テストを企業向けに行っています。このテストでは、グループで活動する際に自分の個性がわかり、他者の個性もわかるので、お互いの意思疎通に役立つというもの。これを活用し、自分たちがやりたいこと、目指すことは何だろう?ということを共有、企業の魅力を見える化していきます。社員の皆さんが、お仕着せではなく自分たちでやりたいことを目指せるという、特色のあるサービスとなっています。そこで得られたものを基にデザインしていくと、他にないデザインができる。このプログラムは口コミで全国に広がり、これまでさまざな業界で900件以上、ブランディングやデザインに携わってきました。

中小企業も自社の魅力を打ち出す時代

ブランディング業務にはどんな苦労がありますか?

 

関本:
企業の社内で意思統一ができておらず、そのせいでビジネスが中途半端になってしまうことはよくあります。それをまとめるスキルをうちが引き受けて、働く人たちの意欲を湧かせ、同じ方向に意識を揃える。いわゆるインナーブランディングは、ブランディングする上で非常に大事なことだと思います。チームのベクトルを合わせてまとめるというのは、うちの必殺技です。プレーヤーである社員たちが、自分たちが掲げる旗頭を信じていないとブランドには絶対ならない。コンセプトを軸にチームが動くという仕組みを、私たちもその都度学んできました。

 

今後、挑戦していきたいことやビジョンはありますか?

 

関本:
自分も中小企業をやっていて思うのですが、中小企業は下請けが多いので、自分たちが打ち出したいものを重要視していないところが多いですよね。しかし今ネットワークが広まり、競争相手もいっぱい全国に散らばっていて、中小企業も「これが自分たちの魅力」と打ち出して差別化し、PRしていかなきゃいけない時代だと思うのです。BtoBでもBtoCでも企業が価値のある商品でブランド化し、働く人はそこに向かって一生懸命働いて、みんなで収穫を得る。ここで働いていて良かったとみんなが思える会社を増やしたいと思っています。日本の企業は99.2%が中小企業だと言われています。99.2%の働く人たちが幸せになれたらいいなと考えながら、ブランディングを進めています。

地域の子どもや若者の可能性を伸ばしたい

大切にしている地域貢献への思いを聞かせてください。

 

関本:
「ブランディングで地域貢献」とよく言われますが、そんなに格好いいことは考えていなくて、先ほどお話ししましたが、企業と社員さんが幸せになれたらいいなと。それともう一つ、若い人を育成したいというのはありますね。若い人の可能性を広げられるかどうかは大人の役割で、大人も努力しなきゃいけない。若手にノウハウと正しい知識を伝承して、そこから羽ばたいてほしい。そのためにも我々の「ストレングスファインダー」を活用してもらっていて、子どもを対象にしたNPOイベントなどの依頼がある場合は、ボランティアで行っています。人と自分は違う、一人ひとりが別の人なのだとわかると生きやすくなる。未来に羽ばたく新潟の子どもたちや若者たちは、可能性に満ちあふれていてほしいと思います。

 

明和義人祭に対すること、メッセージをお願いします。

 

関本:
上古町でマルシェをやった時に、明和義人の話をよく聞きました。港町新潟の商人は結構タフな人たちがそろっていたという話で、今の新潟の経済人、ビジネスをやる人に、タフさを伝えられるのではないかと思います。昔の新潟人が持つ元気さへのオマージュと憧れのようなものってありますよね。明和義人祭も、もっとストーリーの内側が伝わっていくといいなと思っています。

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。